ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
やがて、観念したかのように語りだす。
「……子供の頃は」
その表情は、倉橋からは窺えない。
「…人を殺す事に躊躇いも、何もなかった。そうする事が普通だと、教え込まれてきた。何度も殺しているうちに、いつからかそれを苦にも思わなくなった」
時雨の言葉を、倉橋はただ黙って聞く。
「何か大切なものを守るための剣。父はそう言っていたからな……だから俺は、父や母を守ろうと子供ながらに思った」
自然に握られる時雨の拳。
その拳は、病気のせいか力がない。
「だが…父は殺され、母も死んだ。守りたいと思うもの、全てを失った……俺に残ったのは、殺しの技術だけ」
それで生き残っていくしかなかった。
そうして生きていくのが普通だと信じて。
「だがそうして生きていくうちに…世間に触れ、自分の異常さを叩きつけられた。やがて自分が大罪人として裁かれてもおかしくないのだと、悟った」
そう気づいた頃には、果たしてどれほどの命を奪っていたか。
それはもはや、時雨にすらわからない。
「……確かに、君は多くの命を奪ったのかもしれない。それは決して許される事じゃないだろう」
時雨の話を聞いてか、倉橋が話し出す。
「それが仮に君に罪の意識がなかったとしても、それは罪……償うべき時は、いずれ来るかもしれない」
だが、と続ける。
それに対し、時雨が倉橋に視線を送る。
「…だが、君のやろうとしている償い方は正しいとは思わない」
「何が言いたい…?」
倉橋の言葉に目を細める。
微かな殺気のようなものを感じる倉橋だが、彼は止まらず。
「少なくとも…君が死ぬことを良しとしない人達がいることを私は知っているからだ。君にも心当たりがあるだろう」
「……」
倉橋の言葉を、時雨は否定できない。
心当たりがあったから、というのは間違いではない。
しかし。
「…そうかもしれないな」
「だったら…!」
「だが、仮にそうだとしても……それは生きる者のエゴだと、俺は思っている。仮に俺が死んだところで、いずれは時間が辛さを消すだろう」
そのほんの僅かな時を乗り切るだけでいい。
そうすれば、いずれ普通に暮らせるようになる。
「……そんな時の流れを、何度も見てきた。医師であるのなら、分かるだろう」
「っ…」
だからこそ、自分が死のうが、別にそれはそれでどうでもいい。
だから、治療は望まない。
「……依頼を完遂するまでの延命措置は頼むが、それ以上は望まない」
余計なことはしてくれるな。
それだけ言い残し、時雨は部屋へと消えていく。
廊下に残された倉橋はただ一人。
「……私には、誰よりも君が一番、喪う辛さに苛まれ続けているように見えますよ。華月君…」
それだけ言い残し、倉橋も歩き出す。
懐から携帯電話を取り出しながら。
「君は生きるべき、等という高説を垂れるつもりはありませんが…私とて医師であり、君の担当医だ。その責務は、果たさせてもらいますよ」
番号を入力し、耳に当てる。
その通話の先は。
「……あぁ、私だ。予定通りに進める。人員を確保しておいてくれ……それと、もし華月君を訪ねてくる例の子達が来たら伝えて欲しいことが……」
それは、倉橋のみが知る部分だった。