ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
出会ったのは、もう五年近く前になるだろうか。
私が住んでいた国、ドイツに突然、彼はやってきた。
「いらっしゃい、君がシグレか。話は聞いているよ。さぁ入って入って」
「日本の方には寒いでしょう。中で暖まっていって」
近々、ホームステイをする日本人が来る。
その受け入れ先に、私の両親は立候補していた。
私の両親は、彼を快く迎え入れていた。
「……」
そうして迎え入れられる彼…シグレを、その時は両親の陰から見ていた。
それもあって、シグレの表情をよく見ていたわけではない。
それでも、誰に聞いても人が好いと評判の両親に育てられたからだろうか。
シグレがその心の奥底に抱えるもの、その片鱗が垣間見えたような。
そんな気がした。
あまりに静かすぎる出会い。
…それが、私…ヴェンデルガルト・リヒテンベルクとシグレ・カゲツの出会いだった。
出会った当初はというと。
朝、まだ街に活気が出る前の早朝には。
「…出かけます」
どこか不慣れなドイツ語でシグレはそう両親に告げ、すぐに出かけてしまう。
そんな彼を。
「そうか…大変なんだな。気を付けて」
「…朝食、貴方の分も用意しておくから、ちゃんと戻ってきてね」
両親は変わらず笑顔で送り出す。
「……」
シグレはそれには答えず、出かけてしまう。
笑顔で送り出してこそいるが、シグレが外に出た後に閉まる扉を見て寂しそうにしていた両親の表情は、今でもよく覚えている。
「おぉ、おはようヴェンデ。さ、ご飯にしようか」
「さぁ、座って座って。冷めちゃうからっ」
私には、そんな素振りは微塵も見せてくれなかったけれど。
それでも私は、こんな我が家の雰囲気が、大好きだった。
…ある日の夜。
「…ねぇ」
夜遅くに帰ってきたシグレに私は問いかける。
両親も寝静まっており、明かりもない家の廊下。
月明りこそ入ってくるが、シグレの表情は見えない。
呼びかけても、シグレは振り返りすらしなかった。
「…まだ起きていたのか」
シグレは、そう小声で話してくる。
考えてみれば、彼に話しかけたのは、これが初めて、だった気がする。
「いつも…どこに出かけてるの」
そう、勇気を振り絞り、なんとか言葉にする。
共に暮らし始めて何日も経つのに、まるで初対面のような感覚が抜けない。
「……野暮用だ。気にするな」
答える気はない、と言わんばかりのシグレ。
深入りするのを拒絶されるような、壁のようなものを感じるが、それでも。
「それは出来ない」
「何故」
「…ホームステイでも、うちで一緒に暮らしている以上は…家族だから」
家族の心配をするのが悪いこと?
そう、問いかけるが、答えは返ってこない。
軽く一瞥され、少しばかり無言の静寂が廊下を包む。
「……明日は、朝食に参加してから出かけるようにする」
静寂を打ち破り、それだけ言い残して、部屋へと入っていく。
一瞬何を言われたのか理解できずにぼんやりと彼の背中を見送り。
「……約束」
やがてその意味を飲み込み、彼がいなくなった廊下で呟きながら、私も部屋へと戻った。