ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第8話:束の間の日溜り - II

面倒な事になった。

それがまず第一に思った事だった。

 

 

「……」

 

 

部屋に戻り、扉に背を預けて一つ息を吐く。

この家の娘だと紹介されたヴェンデルガルト。

家族にはヴェンデ、と呼ばれているようだが、どうでもいい。

溜息を吐きながら、窓から見える月を覗く。

気候の差か、日本のそれとは若干違って見える。

静かな夜。

 

 

「…」

 

 

今回ここに来たのは表向きはホームステイとなっているが、実際は違う。

この地域で近頃発生している連続殺人。

地域が限定されることや、手口が共通しているから同一犯という事らしいが、操作を行う警察官ですら被害に遭っている。

このままにはできない為、これ以上の被害を抑える目的で、処理を依頼され、海を越えてくることになった。

それだけ聞けば、国の間での協力関係が成り立っているように聞こえる。

だが実際のところは、そうではない。

外国にいい顔をしたい、そうして後ろ盾を得て成りあがりたい、という醜い欲望の中で、捨て駒にされた、という方が正しい。

要は、警察が情報を得るための捨て駒となり、犠牲になれ、と言われているのと同じ。

 

 

「……」

 

 

法で人権やらなにやらの保障はあれど、そんなものはお構いなし。

むしろ法を遵守するために必要な犠牲。

いいように使われているだけだった。

とはいえ、俺や、父が今までやってきた事の揉み消しという対価を得ている以上、断るという選択肢はない。

それは、父が殺された今となっても、何も変わらない。

そして、それはこれから一生、変わることはない。

 

 

「…」

 

 

そんなだから、なのかもしれない。

この家族を、眩しいと感じてしまうのは。

温かいと、感じてしまうのは。

しかし、それが許されるわけではない。

許されてはいけない世界に、自分はいる。

その時には、そう認識できる程度にはなっていた。

 

 

「っ…」

 

 

頭をガシガシと掻き、溜息を吐く。

明日からどうするか。

先ほどあぁは言ったものの、どうしたらいいのか分からない。

父を喪い、母を喪い。

頼れる親戚や友人もなく、一人の時間が長すぎたせいだろうか。

どのように振舞えばいいのかが、分からない。

 

 

「…」

 

 

いっそ、明日の早朝に、外に出てしまおうか。

そうすれば、今までと変わらずだろう。

しかしそれでも、少なくとも今までは一言言って外に出ていた。

それが急になくなれば、不審に思われるかもしれない。

そうなれば、例えばどこかに連絡されるなど、調査に不都合が生じる行動を起こされる可能性もある。

それを考えると、得策ではない。

 

 

「…」

 

 

いっそ、事情を話して協力を仰ぐか。

地元の人間だからこそ分かる事情があるかもしれない。

…しかし、その考えはすぐに捨てる。

数日、更にほんの限られた時間とはいえ、共に過ごして分かったことは、この家族は『こちら側』ではない。

人間の醜い部分を見せつけられてきたからこそ、この家族がそういった部分がないことは分かっていた。

だからこそ、巻き込むべきではない。

 

 

「…寝るか」

 

 

結局のところ、提案を受け入れつつ、必要以上に悟られないようにするしかない、という結論に至る。

この家族がここまで温かいものでなければ、ここまで悩むことはなかったのかもしれない。

しかし、温かさを知ってしまった以上。

まして、自分なんかを受け入れてくれた以上は、守らねばならない。

かつて、自分を守ってくれた、父のように。

 

 

「……父さん」

 

 

まだ、未熟ではあるけど。

そんな俺を受け入れてくれた家族を守る力を、貸して下さい。


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