ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第9話:束の間の日溜り - III

翌朝。

 

 

「……」

 

 

ここに来て、初めて皆揃っての朝食。

 

 

「…美味しい?嫌いなものとかない?大丈夫?」

「……はい」

「日本の食事は食べたことはないが、ここの食事も美味しいだろう?」

「…はい」

 

 

両親が今まで会話がなかったのを取り戻すかのように矢継ぎ早に話しかけている。

一方のシグレはといえば、分かっていたことだが慣れない会話に既に疲れ気味だった。

慣れないというのは言語の壁、というのもあるがそれだけではなく、おそらく彼自身が会話が得意ではない。

それは何となく察しがついていた。

 

 

「……」

 

 

というより、話しているせいか、両親もシグレも食事が進んでいない。

仕事とか、大丈夫なのかと心配になったが。

 

 

「…あ、あなた、時間!」

「っ…まずい、急いで食べ…ごほっ」

「あぁ、もう…落ち着いて!」

 

 

…大丈夫じゃなかった。

それから少しばかりドタバタした後。

 

 

「じゃ、じゃあ私たちは出かけるから」

「ゆっくりしててね。ヴェンデ…あと宜しくねっ!」

 

 

母の言葉に頷く。

私も学校こそあるが、両親より遅く出て余裕で間に合う。

そもそも、今日は休みなのだが。

ふと、横を見れば。

 

 

「……」

 

 

シグレが机に突っ伏していた。

 

 

「…平気?」

「……そう見えるのなら眼科に行け」

 

 

心配で尋ねれば悪態が返ってくる。

せっかく心配したのになんて対応。

まぁ、この様子を見てると怒りよりも微笑ましさが出てくるのだけど。

 

 

「…なんか、ごめん」

「なぜ謝る」

「迷惑、だったかなって…」

 

 

顔を上げるシグレに謝る。

約束してくれたとはいえ、半ば強引にこんな事をさせているわけで、罪悪感がないわけでもない。

 

 

「こういう食事は、初めてだったからな…どうしたらいいか、わからなかっただけだ」

「……初めてって…これくらい普通じゃない?」

 

 

私の問いに、シグレはすぐには答えない。

私にとっては当たり前の事で、それが普通だと思っていた。

それが、家族というものなのだ、と。

 

 

「…これが普通だというのなら、俺の家は普通の家族ではなかった…ということなのだろうな」

 

 

呟くように言いながら、シグレは立ち上がる。

 

 

「……出かける」

 

 

私が何かを聞くより前に、歩き出す。

 

 

「昨日も聞いたけど、どこに……」

「…朝食に相席するという約束は果たしたはずだ」

 

 

私の質問には答えず、シグレは家を出ていく。

一人残された家の中で、彼が出た玄関の扉を見る。

 

 

「…」

 

 

初めは、何とも思わなかった。

それ以上に、下手に近づくことに対する恐怖のようなものがあった。

けれど、今は。

 

 

「…行こう」

 

 

もう少し、彼のことを知りたい。

そう思い、彼を追いかけることにした。

今日は休みだしちょうどいい。

 

 

…そう思い、私は戸締りをして、彼がどこへ向かったのかを探しながら、追いかけることにした。


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