ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第11話:束の間の日溜り - V

あの翌日。

 

 

「……」

 

 

シグレは私とは会話をしなくなった。

彼なりの気遣いなのかもしれない。

たった一度。

されど一度。

見てしまったあの姿は、強烈な印象を私の心に刻み付けた。

 

 

「…では」

 

 

シグレは食事を終え、軽く挨拶をして外へと出かけた。

どこへ行ったのかは分からない。

けれど、もう追いかけようという気は起きなかった。

それは、あれを見てしまったからではない。

あんなことは、そうそうある事ではないはず。

それよりも、それでシグレの迷惑になるようなことはしたくなかった。

 

 

「じゃあ、私たちも出かけるから」

「ヴェンデも学校、遅れないようにな?」

 

 

両親も出かけ、私は家に一人。

とはいえ、すぐに私も出かけるけれど。

 

 

「…」

 

 

あれを思い出さないように深呼吸をする。

目を閉じると、未だに鮮明に思い出せてしまう。

深呼吸で吐き気を押さえながら、少しずつ慣らすようにする。

 

 

「行こう…」

 

 

それでも、昨日のように体の力が抜けたりはしない。

父にも母にも心配されなかったあたり、上手く誤魔化せていたのだろうか。

あるいは気遣って聞かれなかっただけか。

私には分からない。

それでも、私は歩き出す。

 

 

「…遅刻なんてしたら、心配かけちゃう」

 

 

両親はもちろん、学校の友達にも。

シグレにも。

 

 

 

………

 

……

 

 

 

 

通学路。

 

 

「おはよ、ヴェンデ!」

「…おはよう」

 

 

通学路で声を掛けられ、挨拶で答える。

家を出て、いつも通りの通学路。

そこを歩く頃には、昨日の事は記憶から大分薄れていた。

友達と談笑しながら歩く通学路。

それは、何も変わらない毎日。

 

 

「ヴェンデ…大丈夫?なんか、気分悪そうだけど」

 

 

突然そんな問いを掛けられ、一瞬慌てる。

まさか昨日のことを話すわけにもいかず。

 

 

「…大丈夫、行こう。遅れるから」

「あ…うん、そうだね」

 

 

半ば強引に打ち切り、早足で歩きだす。

もう、昨日の事は忘れよう。

 

 

「あ、ちょっと…!」

 

 

無意識に早足になってしまったのか、声を掛けられハッとする。

 

 

「もー、突然スピード上げないでよ。びっくりするじゃん」

「…ごめん」

「はいはい。許してあげますよ…その代わり、数学の宿題見せて!」

「……」

 

 

やれやれ、と思いながらも笑みが零れる。

楽しい日常。

きっと、私は大丈夫。

ちゃんとやっていける。

それもこれも、周りの人のおかげ。

周りのみんなのおかげで、私は笑っていられるのだと、そう思う。

友達も、家族も。

…時間は短いけど、シグレだって、そう。

口には出さないけど、皆が、私は大切。

だからこそ。

 

 

「自分でやらなきゃ、だめ」

「ケチー!」

 

 

だからこそ、甘やかすようなことはしないのだけれど。

 

 

 

…それからは特に問題なく一日を終える。

 

 

 

今日もいつも通りの一日が終わる。

 

 

 

……そう、思っていた。


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