ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
第27層、トラップの部屋。
「ちぃっ!」
長剣で敵を倒す。
もうどれだけ倒しただろうか、レベルが60を突破していた。
けれど、モンスターの発生は止まらない。
「はぁ、はぁ…」
シグレの指示通りに、背中を守りながらシグレが討ち漏らした敵を確実に仕留めていく。
自分から攻める事をしない分、隙が少なく、体力的な余裕もあり、そこから精神的な余裕も生まれ、シグレへと心配が移る。
そんなシグレのHPは黄色表示。
それは、半分を切ったことを意味していた。
しかし、シグレは止まらずに敵を倒していく。
「っ…」
シグレの斬撃は、一撃で敵を光の粒に変えていく。
それはシグレのレベルが上がったからか、あるいは敵の弱点を把握したからか。
あるいは、その両方か。
1対1なら、無傷で切り抜けるだろう、と三人は思う。
しかし、相手にしている数があまりに多すぎる。
敵を倒せば、別の敵がシグレに寄り、攻撃をする。
それが、わずかとはいえ確実にダメージをシグレに蓄積させていく。
「…っすげぇ」
誰が漏らしたか。
どれだけのダメージを負っても、少しの怯みすら見せないシグレ。
モンスターの出現が幾らか緩やかになってきて、希望が見え始めた一方、シグレのHPは赤色表示になっていた。
それに気づいてか気づかずか、シグレは未だ止まらない。
「つっても…もう、限界、だろっ…このままじゃ…!」
ササマルが目の前の敵を攻撃しながら声を上げる。
シグレの勢いは止まらないといえど、HPはあと数回攻撃を受けたら尽きてしまいそうなほどに減らされていた。
黒猫団の皆は辛うじて黄色表示になるかならないかのところ。
それでもモンスターの出現は止まらない。
黒猫団の皆が、死亡という名の絶望を感じ始めた矢先。
「危ない、シグレ、後ろだ!」
誰かが叫ぶ。
しかしシグレは正面の敵に武器を振っており、後ろに手が回らない。
そのため、その叫びに応えることはできず。
「がっ…!」
背後から切りつけられる。
「シグレ!」
「だめだ、動くなササマル!」
「けどこのままじゃ…!」
「2人とも、目の前だ、敵が…!」
切り込み隊長が体勢を崩されたことで、3人も一気に窮地に立たされる。
シグレも、体勢を整えようとするが、複数の敵に囲まれ、猛攻が止まらずにHPが減少していく。
「ここまでか……」
諦めが半分入り、目を閉じようとした、その瞬間。
突然、固く閉じていた扉が吹き飛ぶ。
そこから飛び込んできた複数の影。
「総員、突撃!A隊およびB隊、敵の殲滅に当たれ!C隊、D隊、プレイヤーの救出だ!」
「「「了解っ!!」」」
リーダーの掛け声で勢いよく飛び込んできたプレイヤーによってモンスターがみるみる殲滅されていく。
モンスターの出現は止まらないが、モンスターを抑え、救出をするには十分な人数のプレイヤーがいた。
別のプレイヤーにより、テツオ達も救出される。
「シグレ!お願い、死なないでシグレ!!」
「……サチ…か?」
体を揺すられ、意識が僅かに覚醒する。
HPは残りほんの1目盛り程度。
あと一撃食らっていたら、死んでいただろう。
「良かった…!」
言いながら、サチはシグレに抱き着く。
「…ここは危険だ。早く戻ろう」
剣士…キリトに促され、シグレは立ち上がる。
「これ…使って」
「…大丈夫だ。それよりも早くここを……」
「いいから使って!」
「お前…」
走りだそうとした瞬間、シグレは見覚えのある女性からHP回復薬を半ば押し付けられるように受け取る。
押しつけられたとはいえ、受け取った回復薬を使い、HPが全快までいった。
「…心は決まったようだな」
「えぇ、おかげさまでね」
シグレの言葉に、アスナは笑みを浮かべる。
剣を持つその姿は、確固たる意志を持った女性の姿だった。
「…シグレ、知り合い?」
「あぁ…第一層でな。名前は知らんが」
「………え?」
サチはシグレとアスナの関係を尋ねるが、返ってきた答えに一瞬言葉を失う。
名前を知らないのに、知り合いというのはどういうことなのだろう。
単純に疑問だった。