ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
放課後。
何事もなく一日を終え、帰路につき。
「…ただいま」
家の扉を開ける。
いつも通りの帰宅。
「……?」
けれど、何かがおかしい。
直感的に私はそう察した。
いつもなら、母がおかえり、と返してくれる。
母が夕食を作る音や香りが感じられる。
けれど、そのどちらも感じられない。
「?…お母さん……?」
リビングの扉を開ける。
いつもの生活感を微塵も感じない部屋の中。
「……シグレ?」
一人、シグレが立ち、床を見下ろしていた。
見れば、外出するときの服装だった。
どうして着替えもせず、こんなところでじっと立っているのか気になった。
私が声をかけると、シグレはこちらを見る。
シグレに近づき、シグレが見ていた場所を見れば。
「っ!?…おかあ、さ……ん……?」
床に伏す、母の姿があった。
その隣には。
「おと、う…さ、ん……?」
まるで身を寄せ合うように、父も倒れていた。
二人が流す血が、床で混ざり、文字通りの血溜り。
私はそこに、服が血で濡れる事も分からないままに膝をつく。
小さな水音とともに血が跳ねる。
「ね、ぇ…起きて……帰ってきたのに、なんでおかえりって…言ってくれないの……?」
私は両親の頬に手を伸ばす。
反応はない。
それだけならまだよかった。
両親の体は、冷たかった。
子供の頃から私に与えてくれた温もりは、そこにはない。
「や、だ…やだよ…おとぅ、さん…おかぁ、さん……お腹、空いたよ…今日のご飯、なに……ねぇ…っ?」
呼びかけても。
体をどれだけ揺すっても。
二人は起きない。
「あ、ぁ…っ」
もう、どれだけ望んでも。
どれだけ求めても。
あの温もりは。
暖かい家族は、もう、どこにも、ない。
「…ぁ……っ」
混乱した私の頭が、徐々に理解する。
嫌だ。
理解しないでよ。
こんなの、嘘だ。
そう必死に自分に言い聞かせる。
そう思っている時点で、理解はしてしまっているなんて、思いたくない。
「ぁあ…!」
嫌だ。
嘘だ。
嫌だ嘘だ。
嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だ嫌だ嘘だイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダイヤダウソダ。
「あああぁぁああぁぁあああぁぁーーーー!!!!!!」
冷たい、からだ。
その少しのあたたかさでもいいから、かんじさせて。
おねがい、だから…!
「っぁああああぁぁーーーー!」
かみさま。
わたしは、なにかそんなにわるいことをしましたか。
もしそうなら、たくさん、あやまりますから。
たくさん、おいのりします、から。
おとうさんを。
おかあさんを。
どうか、かえしてください……!
「うっ、うぅ……」
ほんとうは、分かっている。
どれだけ願っても、どれだけ祈っても、もう、私の願いは、叶わないのだと。
頭でだけは、分かっている。
そんなぐしゃぐしゃになった心は、なかなか落ち着かない。
すると。
「……?」
携帯電話の呼び出しか、バイブレーションの音が小さく響く。
私のでは、ない。
だとすれば。
「……俺だ」
振り返れば、シグレが私に背を向けて、電話をしていた。
相手は、分からない。
日本語…みたいだ。
私には、分からない。
「………数日調査したが、ターゲットはロスト。これ以上この場での調査は意味なしと判断、移動の必要あり」
何を言っているのか、分からないけど。
少しだけ、分かった。
target lost。
目標、消失。
失う。
「……」
理解した言葉と、頭の中を占める事実が混じりあう。
ターゲット……私の、両親。
ロスト…死亡。
事実と、シグレの言葉が簡単に結びつく。
実際には違う可能性もある。
けれど、この状況の理由を求める私には、そういう思考しか出来なかった。
「……了解。これより次の目的地に移動する」
そんな私など関係ないかのようにシグレは電話の相手に淡々と告げる。
私には、その言葉は分からない。
日本語を学ぶ機会などなかったし、教えてもらったこともない。
けれど、そんなことはもう、どうでもいい。
「…」
溜息を吐くシグレ。
そんなシグレを、今までのようには見れなかった。
「……どうして?」
私の言葉に、シグレは私に視線を向ける。
けれど、シグレは何も答えない。
「っ…どうして……!!」
どれだけ強く尋ねようと、シグレは表情一つ変えない。
私の、怒りを超えたこの気持ちすら、シグレには届かない。
「……」
シグレは何も言わず、私に背を向けたまま、歩き出す。
今の私は、どうやっても奴には届かないだろう。
だとしても。
「……す」
こんな言葉、思い浮かぶなんて、思っていなかった。
一生、思い浮かべることもないと、思っていたけど。
奪ったのなら。
奪い返してやる。
「
私の言葉に、奴は振り返る。
その視線は、冷たい。
今まで見たことのない、その冷たさは、私と同年代だとは、とても思えないほどの、冷たい視線。
無表情の、奴の顔は、物語でしか見たことのない、殺しを生業とする存在に見えた。
その視線に、私は震えそうになるが、その震えを必死に殺しながら睨みつける。
そんな私に。
「…
流暢な話し方で、そう一言だけ残し、奴は家を出て行った。
……私は、必ず、やってやる。
私から全てを奪ったお前を。
私は、絶対に、許さない。
…許すことなんて、出来ない。
……許すとしたら、その時は、私が死ぬ時だ。