ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレとの戦いの後。
「こんばんは、木綿季」
「あ…こんばんは詩乃さん」
知り合った病院近くのコンビニで挨拶を交わす二人。
シノン、改め朝田詩乃。
ユウキ、改め紺野木綿季。
GGOで共に戦った仲とはいえ、現実ではそれほど会ったわけでもないせいか、若干距離がある二人。
それでも、下の名前で呼ぶのがしっくりくる、といったこともあり、そう呼び合っている。
「じゃ、行きましょうか」
「は、はい…」
年上年下を気にしているのか、それとも別の理由か。
妙に大人しい木綿季に詩乃もどう接すればよいのか悩みながら、二人はマンションへと向かう。
GGOの中で一緒に行動する約束をしていた為の待ち合わせだった。
「……なんというか」
「?」
「向こうと違って、随分静かなのね」
「あ、えと…あんまり話したら迷惑かなって」
木綿季の言葉に詩乃は苦笑する。
「急に調子を変えられたら、そっちの方が私としてはどうしたらいいのか分からないのだけど?」
「あ、すみません…」
謝ってほしいわけではないのだけど、と苦笑。
「…なら、私から聞いてもいいかしら?」
「?」
「興味本位でごめんなさい。ただ、気になるのだけど…木綿季、あなた先輩と何があったの?謝らないといけない事って…」
詩乃の言葉に木綿季は一瞬考え。
「……皆がいるところで、ちゃんと話します。でも、ボクはあの人を犠牲にして、今こうして生きてしまってるんです」
「犠牲…?」
木綿季は頷きながら。
「もし時雨さんがボクに死ねというのなら、現実で刃を向けられたとしても……受け入れる。その覚悟を持って、時雨さんに話をしに来たんです」
「……」
事情こそ知らないが、強い覚悟を感じる。
けれど、それでも。
直接話をしたことはそれほど多くなかったとしても、自らが先輩と慕う彼ならば。
「……あの人は…先輩は、そんな事を言う人じゃないと思うわ」
「それは…ボクがやったことを、知らないから…」
詩乃は木綿季の言葉に溜息を一つ吐きながら。
「だとしてもよ。確かにあの人はいざとなれば人を殺してしまうかもしれない。実際にそれを見たから」
「っ…」
「それは許されないこと。だけど…やり方はどうあれ、あの人は結果として沢山の人を守ったわ」
あの場に先輩がいなかったら、あの場で手を汚していたのは、自分かもしれない。
あるいは、こうして今ここにいることも、出来なかったかもしれない。
そう、詩乃は続ける。
「……先輩は、誰かを守るために自分を犠牲にしてしまう人。それほどの人が、軽々しく貴女に死ね、なんていうとは到底思えないわ」
「そう、だといいな…」
「…いざとなったら、私も一緒に謝ってあげるわよ」
詩乃の言葉に木綿季はありがとう、とお礼を言いながら笑う。
その笑顔に、詩乃もまた笑顔で返す。
「…なんというか」
「?」
「詩乃さんって…どこか時雨さんに似てる気がします」
どこが、というわけでもない。
まして、ほとんど話したことがあるわけでもない。
それでも、なんとなく話した雰囲気が似ているような。
「……それは、すごく嬉しいことだわ」
木綿季の言葉に、詩乃は笑顔で返す。
同姓である木綿季ですら一瞬見惚れるほどの。
「私にとって、先輩は全て。あの人がいたから、私は今こうして生きている」
そんな憧れの存在に、手が届かないとしても。
せめて少しでも近づきたい。
その思いを、ずっと。
彼女の人生の半分以上もの間、胸の内に秘めて。
「……あの人が死ぬのなら、私も死んでも構わない。でも…叶うのならば、生きていてほしいから」
だから、私は行動する。
詩乃ははっきりと、そう言い切る。
「……詩乃さんは」
詩乃の言葉に、木綿季は詩乃を見て。
「時雨さんのこと…好きなの?」
なんとなく帰ってくる言葉を予想はしていたが、敢えて尋ねる。
それを知ってか知らずか。
「えぇ。私は…朝田詩乃は、華月時雨という人を…愛しているわ。たとえこの想いが届かないとしても、決してそれは変わらない」
そう、迷うこともなく、はっきりと答える。
…やがて、マンションは目の前だった。