ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
マンションの一室の前で二人は立ち止まる。
詩乃に案内されてきたその場所は、時雨が住んでいたであろう部屋。
表札は外されているのか、もとから無かったのか、ついていない。
「…無駄だとは思うけど」
言いながら、詩乃は呼び鈴を鳴らす。
…が、案の定というべきか、応答はなかった。
こうなってくると、彼女らには打つ手がなかった。
「やっぱりダメ、か」
「個々の管理人さんに頼んで開けてもらう、とか?」
「…こう暗いと、訪ねるのもちょっとね」
木綿季の提案を詩乃は棄却する。
GGOでの戦いの後、その日のうちだったこともあり、夜も更けていた。
「それに、私達は先輩と近しい間柄というわけでもない。事情がどうあれ、流石に厳しいと思うわ」
「そっか…そう、ですね」
詩乃の言葉に木綿季は頷く。
「……なら、明日、病院に行ってみましょう」
「でも、それこそ家族でもないとダメなんじゃ…」
「その時はその時で考えるしかないわ。いずれにしても、他に当てがないもの」
やれやれ、といった感じの詩乃。
「……今日は解散かしら」
「あ、はい…そう、ですね」
それじゃ、また、と歩き出そうとする木綿季。
「あ…ちょっと待って」
「?」
「…よければ、泊ってかない?明日も行動するのだし…それに、色々と、話してみたい事もあるの」
突然の詩乃の提案に木綿季は一瞬戸惑うが。
「あ、はい…」
断る理由もなかったので応じることにしたのだった。
………
……
…
そうして、歩いて数歩、訪ねた部屋の隣の詩乃の部屋にて。
「…隣に住んでたんですね」
「えぇ。偶然を通り越して運命じみたものを感じたわね」
詩乃の苦笑に木綿季も笑顔で返す。
反応に困った、ともいえるのかもしれないが。
「…あんまりいいお茶は出せないけど」
「あ、いえ、お構いなく」
「構うわよ。私が無理して呼んだんだから」
借りてきた猫のように小さくなる木綿季に。
「……気になってたんだけど、聞いてもいいかしら」
「あ、はい」
話しかける詩乃に木綿季は続きを待つ。
そんな木綿季に。
「木綿季はどうして、先輩を追いかけてるの?」
「え…?」
「言い方はあれかもしれないけど、変な話…先輩に関わらなければ、謝りたい事っていうのも知らぬ存ぜぬで普通に暮らせてたんじゃない?面識もないんでしょ?」
詩乃の探るような視線に、木綿季は一瞬言葉が途切れる。
確かにその通りで、否定はできない。
「……そう、かもしれません」
でも、と木綿季は続ける。
「でも…このままじゃ、ダメだって、そう思うから。たとえ迷惑だと思われてもいい。恨み言を言われたっていい」
何を言われたって、受け止めなくちゃいけない。
そう、はっきりと言葉にする木綿季の瞳は力強さすら感じられた。
「…強いのね」
「え?」
ぽつり、と呟くような詩乃の言葉に、木綿季は聞き取れなかったのか問い返す。
「木綿季が先輩との間に何があったのかは知らない。だけど…それほどの後ろめたさを持って、逃げるチャンスがあるのなら…多分私じゃ逃げてしまうから」
それをしなかった木綿季は凄い。
そう、苦笑とも自嘲ともとれる笑みを浮かべながら詩乃は言った。
「……でも、ボクは詩乃さんが羨ましいです」
「私が?」
木綿季の返しに、今度は詩乃が疑問符を浮かべる。
それに木綿季は頷きながら。
「たった一度会っただけの人をずっと…何年も想い続けられる強さが、羨ましい。ボクは…目を背け続けてしまったから」
詩乃さんには敵わないです、と笑う。
それに詩乃は手元の湯飲みに視線を落としながら。
「…なんか、似てるわね。私たち」
「……そうですね」
そう、二人は笑いあいながら、夜は更けていく。