ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
決勝前、出場する選手が緊張、あるいは精神統一で静かにしていたり。
予選落ちした出場者や観客が応援やら賭けで盛り上がる総督府。
その傍らで、一部が異様な雰囲気に包まれていた。
「……」
そこには、フードで顔半分を隠し、性別すら見て取れない人物。
そしてそんな人物に、フィールドでもないのに光剣の切っ先を突き付ける人物。
「おいおい、決勝はまだだろ。お楽しみにはちっと早ぇんじゃねェか?」
「…ここで失格になろうが、別に俺はどうでもいい」
やれやれ、といった感じで怯える様子すらなく、降参と言わんばかりに両手を上げるフードの男。
「……そんな事より、さっきの話についてだが」
「まさか素直に答えると思ったか?この俺が?HAHAHA」
剣を突き付ける人物…シグレの問いを、フードの人物…ヴァサゴは軽く躱す。
予想こそしていたか、シグレは舌打ち一つで追及をやめる。
「……これ以上の押し問答は、時間の無駄か」
「よく分かってんじゃねぇか。俺達の話の仕方は、もう言うまでもねぇよなぁ?」
お前は、俺と同類なんだからよ。
そう、ヴァサゴはシグレに言う。
ヴァサゴの人となりを知っていれば、普通であれば、それは動揺を誘う一言。
しかし、シグレは動じない。
それが意味するところは、誰が言うまでもない。
雰囲気だけ見れば、そんな中に割って入ることが出来ない。
固唾を呑んで様子を見るプレイヤーが何人かいる中。
「…ようやく見つけた」
そう言いながら、光剣をシグレに突きつける、銀髪の女性。
シグレは首筋まで数ミリのところに突き付けられた光剣に触れないよう、視線だけ声の主に向ける。
「……」
「私の事……忘れたとは言わせない」
VRMMOの世界ということもあり、容姿が異なることも多々ある。
まして、今のヴェンデルガルトを知らないシグレにとって、彼女は未知の女性だったのだが。
「…ヴェンデか。暫く見ない間に変わったな」
表情を崩すことなく、シグレはそう、ヴェンデルガルトに声をかける。
かつて、彼女自身が親しい人にはそう呼ばれる、と伝えた愛称で。
「気安く呼ぶな…シグレ」
「…」
「私は…私の両親を殺した貴様を殺すために。仇を討つために今まで生きてきた……現実で殺せないのは残念だが、今こそ果たさせてもらう」
そんなヴェンデの言葉に反応したのは。
「おいおい、いきなり現れて随分勝手言ってくれるじゃねぇか?」
シグレではなくヴァサゴ。
邪魔されたことに気が立ったか、ヴァサゴは自らの光剣をヴェンデに突き付ける。
シグレはヴァサゴを。
ヴァサゴはヴェンデを。
ヴェンデはシグレを。
『……』
一触即発、という言葉が非常に合う雰囲気。
そんな空気を打ち破ったのは。
『まもなくBoB決勝戦を開始します。出場プレイヤーの皆さんは…』
システムアナウンスだった。
その声を聴いてまず刃を下げたのは。
「どうやら、お楽しみの始まりか?まぁ楽しもうや。HAHAHA…」
ヴァサゴだった。
決勝ステージへの転送が始まったのか、ヴァサゴの体が光に包まれて消えた。
次に光に包まれたのは。
「……精々、首を洗って待てばいい。お前は私が必ず、殺すから」
ヴェンデ。
揺れる銀髪の前髪の隙間からシグレを睨みつけるその瞳には、憎悪の炎が宿っていた。
「……」
シグレは静かに、言葉を発せずにヴェンデがいた方に視線をやる。
けれど何を思うでもなく、正面に向き直り、無言で転送されていった。