ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
そして始まった決勝戦。
「……」
隠れる場所が少ない荒野のような場所に一人立ち、歩き出すシグレ。
その手に、武器を構えずに。
荒野という土地の性質上か、足音が響く。
同時に吹き荒れる荒野の風が、その音を掻き消す。
参加者は二桁いたはずだが、近くにはまだ誰もいないようだった。
「…」
先ほどのやり取りを思い出す。
決勝で戦いあう以上、必ず生き残って戦うことになるという保証はない。
とはいえ、ヴァサゴは生き残るだろう。
父とのことがあって、現実での奴を知っていて。
SAOでのことで、仮想世界での奴を知っている。
だからこそ、そう簡単に奴は落ちない。
そう、考えていた。
「…」
しかし、その一方で、ヴェンデに関しては分からない。
あの時、別れて以来、連絡の一つもとっていなかったのだから、分かるはずもない。
とはいえ、決勝には残っている。
それが実力か、運なのかも分からないが。
「……」
一つ、溜息を吐きながら、シグレは光剣を抜く。
その次の瞬間。
「っもらったぁ!」
シグレから少し離れた岩陰から飛び出し、距離を詰めながら銃の連射で攻撃をする。
銃の射撃はシグレを捉え、いくつかの銃弾が砂塵を巻き起こす。
「……っと、弾切れか」
舌打ちをしながら銃を下ろし、リロードを行う。
先の銃撃で、何十発撃ち込んだだろう、その数を撃ち込まれて、HPが残っているはずがない。
そう考えての余裕だが。
「………は?」
次の瞬間、光剣を振るった瞬間の特有の電子音が彼の耳をつく。
「…え?」
その次の瞬間、ガシャ、と音を立てて何かが地面に落ちる。
それは、彼が持っていた銃だった。
リロードをするために、手に持っていたはずのものが、そこに落ちていた。
手が滑ったのか、と考えるが。
「………なんで、俺の…腕が……」
その銃には、誰かの手の指が、絡みつくように、ついていた。
その腕は、紛れもなく、彼自身のものだった。
何が起こったのか分からず、狼狽えていた。
「……どうせ、痛覚はない。ならせめて、冷静に判断すべき…だな」
彼が倒した、相手のプレイヤー。
倒したはずと考えていた、その相手の声が、背後から聞こえたかと思うと。
再度、電子音と共に。
「あ、ぁ…!」
相手プレイヤー…シグレの光剣の切っ先が自分の胸元から突き出していた。
現実であれば、心臓の位置から。
「…所詮ゲームか。こうしたところで、すぐには終わらない」
シグレはそう、呟く。
シグレが確認したのは、相手のHPのゲージが徐々に減っていく様子。
現実であれば、直ぐに事切れる事を、シグレは知っていた。
とはいえ、仕方がない。
そう思いながら、HPが0になるのを見届け。
「……」
光剣を引き抜き、相手にDEADの表示が出ることを確認し、剣を納める。
そんなシグレの視線の先には、相手が使っていた銃。
その銃身をを踏み抜き、破壊する。
「…」
動かなくなった相手を一瞥し、シグレは背を向けて歩き出した。
まだ、決勝戦は始まったばかり。