ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
月夜の黒猫団の皆と別れてからというもの。
レベルが60を突破したこともあり、フィールドでの狩りに若干余裕が出てきていた。
剣を鞘に納めながら、35層の雪降るフィールドを、雪を踏みしめながら進んでいく。
現実では分からないが、少なくともこの世界では12月23日。
クリスマス・イヴの前日だった。
「……」
歩きながら、いつの間にか足音が1人分ではなくなったことに気づく。
雪を踏む足音が、明らかに1人のそれではない。
町に向かって歩いていることもあるので、たまたまフィールドから戻るプレイヤーと鉢合わせたのかもしれない。
あるいは自分が死んだ場合の漁夫の利狙いか、などとシグレは考える。
どちらにしても、する事が変わるわけではないと思い、もう少し様子を見る事とした。
町に着けば人が多く、先ほどの足音が周りの喧騒に紛れる。
それはプレイヤーとNPCの足音で半々といったところだろう。
これなら、仮に自分がつけられていたとしても撒くことは容易だろうと考えるシグレ。
それ以前に自分にそこまで執着するような人もいないだろう、と考えていが。
とはいえ、町に戻ってきた理由はそれだけではない。
目的地は、武器屋。
「………」
武器は各層で仕入れているが、市販の物では性能に限界がある。
とはいえ、仕入れないよりマシなので購入はするのだが。
仕入れたのは、メインで使う剣と、もう一つ。
「…こいつが使いこなせるかどうか、か」
その武器を鞘から抜く。
片手剣より幾分か細身のそれは、片手剣とは異なる輝きを見せている。
手にしているのは、刀だった。
ゲームの世界での違いに別に詳しいわけではないが、これまで使っていた剣とは戦い方が大きく異なる事は間違いないだろうと考えていた。
「…もう少し、鍛錬といくか」
鍛錬といっても、レベルそのものを上げるのはそろそろ厳しいかもしれない。
しかし、武器の熟練度は話が別である。
そう思い、フィールドへと再度足を向ける。
今度は、ついてくる足音はなかった。
再度、フィールドにて。
「っ…!」
刀を振るう。
片手剣よりも、こちらの方がどうやら自分の戦い方に合っている気がした。
「……」
小さい頃に行っていた剣道。
今でこそ鍛錬は一切していない。いわゆるブランクというやつである。
しかし体が覚えている、というやつなのか、刀の振り方が、まるで知っていたかのように自然に動く。
「…縛られているのか、自分が縋り続けているのか」
剣の振るい方を、体は忘れていない。
そして剣を振るう度に思い出す。
…全ての始まりを。
……自分が剣の道を辞めた理由を。
………全ての繋がりを、喪った時を。
また一体、敵を倒す。
過去を振り返りながら振るう、孤独な剣。
これだけが、両親との繋がりそのものだと思っていた。
……否、今も思い続けている。
「…」
けれど、あの時の事件で、犯罪者とはいえ、人を討ってしまった。
それは、いかなる理由があろうと、武道を嗜む者が決してやってはならない事。
その禁忌を犯した自分に、剣の道を続ける資格はない。
だから、こうして剣を振るうのは今だけの事。
現実に戻れば、剣を辞め再び孤独に戻る。
ここで、仮初の温かさを知ってしまえば、きっと現実では生きていけなくなってしまう。
…温かさは、弱さ。
だからこそ、温かさは…知りたくなかったというのに。
「…はあぁぁぁっ!」
余計な思考を打ち切るように声を出しながら敵を討つ。
仮に今、ここでどんなに繋がりを持とうとも。
どれだけ仲間と呼べる存在を作ろうとも。
…所詮、仮想世界の中の話。
現実に戻れば、また一人になることは揺らがない事実。
…だから。
「こいつを終わらせて、外で生きていくために…俺は一人で進まなければならない」
シグレは刀に誓い、それを敵に振るう。
光に散る敵を尻目に刀を鞘に納めながら、シグレは再び歩き出した。
…いつの間にか、日付は変わり、12月24日。
クリスマス・イヴを迎えていた。