ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレは一人、フィールドの森林を歩いていた。
雪降る森林の中、モンスターを撃破しながら歩いていく。
「……」
町で小耳に挟んだ噂。
この層のどこかのモミの木の下で、1年でこの日だけに現れるというフィールドボス。
それが現れるかもしれない場所に。
歩いていると、ふと、鈴の音が空に響く。
空に視線を向ければ、雪降る空と、いつのまにか近くにあったモミの木の先端が視界に入る。
その空を、一筋の光が突き抜けていき。
…次の瞬間。
「っ…!」
咄嗟にシグレは刀を構えて後ろに飛ぶ。
すると、自分が立っていた場所に、粉雪の飛沫をあげて何かが着地した。
目の前に現れたのは、来ている衣装はサンタだが、あまりに大きい体躯のモンスター。
背教者ニコラス…複数のHPゲージを持つ、ボスだった。
「…ふん」
敵は大振りで斧を振り下ろしてくる。
この手の敵は、何度も戦ってきた。
とはいえ、気を抜くつもりはない。
刀を片手に、敵の懐へ。
こんなところで止まるようでは…先に進めない。
それから、どれくらい戦っただろうか。
「ちっ…」
今まで戦ってきたボス達とは勝手が違っていて、シグレは苦戦を強いられていた。
それは、ここが外であるということ。
地面に積もった雪に動きを阻害され、思ったように敵との間合いが取れていなかった。
とはいえ戦い続け、相手のHPもゲージ残り1本で、あと2~3撃で何とか倒せそうな状態。
一方でシグレは回復薬のストックも尽き、残りHPから見るに、あと1撃でも喰らえば…といった状態だった。
こういう状況であれば、普通のゲームなら玉砕覚悟で突っ込むだろう。
…これが、普通のゲームなら。
しかし、戦闘不能が死を招くこのゲームでそんな事を選ぶプレイヤーはまずいない。
普通であれば、回復なり、撤退なりを考えるだろう。
「はぁっ!」
そういった意味では、シグレは普通ではなかった。
シグレは刀を構え、敵の懐に潜り込む。
そこには躊躇い等ない。
一撃を加え、残り一撃。
シグレはそこで、いけると判断し、振り返り連撃を狙う。
…しかし、それが判断ミスとなり、敵が振り下ろした斧が剣を持っていない方…左肩に突き刺さる。
「がはっ…!」
自分のHPが0に向かって減少をする。
しかし、自分の剣も敵を貫き、敵のHPも0となる。
…早い話、相打ちだった。
光の粒となって夜空に消えるボスに被さるように表示されるシステムのメッセージ。
そこに表示された、You are dead の文字。
その意味を理解したところで、思考は止まった。
仮想世界で意識、というのも変な話かもしれないが、薄れゆく意識の中。
「…蘇生、シグレ!」
聞き覚えのない声が、森の中に響く。
残っていた微かな聴力が、その言葉を捉えた。