ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第3話:無意識な拒絶

そして、翌日。

 

 

「……」

 

 

βテストの開始と共に、時雨はゲームの世界に降り立つ。

第一層、はじまりの街、と表示されている。

辺りを見れば、皆が皆、楽しそうに行動している。

友人同士で、これからどうするかを相談する者。

あるいは一人で意気込んでいる者。

なんにしても、喜びや興奮といった感情が溢れていた。

そんな中。

 

 

「…」

 

 

初期の装備だろうか、腰に携えていた鞘から剣を抜く。

見た目的にも上質のものとはお世辞にも言えない剣。

時雨が持っていた刀とは異なる、西洋風の両刃の剣だった。

とはいえ、周りが皆そうかといえば、そうでもない。

…剣ではない武器、昆や槍、両手で振り回すほどの大剣を持つ者もいる。

 

 

「…少し、調べるか」

 

 

時雨、改めシグレは剣をしまい、歩き出す。

やれやれ、といった感じで楽しさを感じさせないシグレは、ただ無表情に街の中へと歩いていく。

シグレにとっては、遊びではなく、仕事で来ていた。

だからこそ、楽しむつもりなど、なかった。

 

 

「……」

 

 

やがて、武器屋は容易に見つかる。

見てみれば、予想以上に武器の種類は多かった。

一通り試してみようかと考えたシグレだったが。

 

 

「…なるほど」

 

 

所持金が足りなかった。

それでも、試す意味で、槍を一本購入する。

そのまま、シグレは外を目指す。

 

 

「…今の目的は、遊ぶことではない」

 

 

そう言いながら、街の外へ向かう。

選べる武器の中には、刀もあったのだが、何故か選ばなかった。

一番使い慣れた武器のはずなのに。

それが何故なのか。

 

 

「……」

 

 

無意識だった。

現実ではない世界だから、なのだろうか。

シグレ自身にも分からなかった。

 

 

 

街の外。

 

 

「……」

 

 

剣を振るうと、猪型のモンスターが光の粒となって消える。

その感覚が、どこか軽く感じるシグレ。

そこまでのリアリティはない、ということだろうか。

剣と槍を使い分け、戦っていた。

その中で少しずつお金を稼ぎながら、さらに別の武器も買い揃え、はじまりの街で買うことができる武器を揃えていた。

 

 

「…」

 

 

それでも、刀を買わなかったのは、何故なのか。

無意識に、避けていたのだろうか。

現実と仮想を無意識に切り離していたのだろうか。

無意識のどこかで、現実の自分を捨てたかったのだろうか。

…答えは、出ない。

 

 

「この中では…こいつか」

 

 

言いながら、手元に残したのは片手剣。

それを鞘に納め、歩き出す。

 

 

…こうすることが、なぜ任務になるのか。

シグレには、その理由が見当がつかない。

 

 

「……そろそろ、戻るか」

 

 

とはいえ、悩む必要はない。

ただ、与えられた任務をこなしさえすれば。

そこに、自分の意志は必要ない。

 

 

…βテストは、まだ始まったばかり。


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