ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第26話:新たな出会い

「つっ……う…!」

 

 

それからどれくらいしただろうか。

背中に感じる妙に冷たい感覚に、シグレは呻きながら目を開く。

 

 

「…気が付いた、シグレ?」

 

 

自分の視界に、逆さになった誰かの顔が映る。

見覚えのない、薄紫がかった髪の女性の姿。

後頭部に感じる温かさから、自分が膝枕されているのだという事が事実として伝わる。

さらに言うと、シグレを覗き込む体勢になったせいで、額のあたりまで、女性特有のそれの温かさが伝わってきていた。

それが何か、など、言われるまでもなく気づいてしまえば。

 

 

「…っ!!?」

「ちょ、ちょっといきなり立ち上がらないでよ…びっくりしたなぁ…」

 

 

咄嗟の反応と、警戒から即座に離れ、腰元の刀に手をかけ、臨戦態勢に入るシグレ。

一方の女性は突然の事に尻餅をついてしまっていた。

その様子に、警戒はしつつも構えを解くシグレ。

 

 

「…突然すまなかった」

「もう大丈夫?」

「あぁ…だが、その前に聞きたいことがある」

 

 

刀から手を離し、その場に膝をついて女性に視線を合わせる。

そして、その体勢のまま。

 

 

「…俺はさっきの戦いで、死んだはずだ。HPが0になる事も目視している。なのに何故、俺はゲームオーバーになっていない?」

 

 

それは単純な疑問だった。

HPが0になればその瞬間に現実世界でも死亡するデスゲームであることは初日から分かっていたこと。

にも関わらず、今こうして、目の前の見知らぬ女性と話をしている。

ありえないことが起きているのだ。

けれど、女性はそんなこと、と言わんばかりに。

 

 

「それは、アナタがさっきドロップさせた蘇生アイテムでアナタを蘇生させたからだよ!」

「……」

 

 

自慢げに胸を張って言う女性の姿は褒められるのを待つ子供のようにも見える。

放っておけば、偉いでしょ、褒めて褒めて、と言われそうだ。

だが、シグレはそんな事を言うつもりはない。

 

 

「感謝はする…が。何故、俺なんかに貴重な蘇生アイテムを使った?」

「……」

 

 

女性は、シグレの問いに姿勢を正し、真っ直ぐにシグレを見る。

女性の真紅の瞳はシグレを捉えており、離さない。

その様子に、シグレも一瞬言葉を失う。

 

 

「…俺なんか、なんて言わないで」

「……?」

「詳しいことは言えないけど…知ってるんだよ。アナタが…周りの人を守るために、命を賭けてたって事。そんな人の事を助けるチャンスがあるのに見殺しになんて…出来るわけないでしょ」

 

 

そこまで言われ、シグレは合点がいったかのように立ち上がり、女性に背を向ける。

 

 

「…なるほど。ここ数日、俺を尾けていたのは…お前だったのか」

「え…?」

 

 

シグレの言葉に反応する女性の言葉にはどんな感情が込められていただろうか。

シグレは背を向けていたので、その表情は窺えない。

 

 

「……怒ってる?」

 

 

女性は少しだけ不安げに尋ねる。

シグレはその言葉に背を向けたまま。

 

 

「これ以上…俺に関わるな。今回のような…無駄な危険に身を晒したくなければな」

 

 

質問の答えではない言葉を返す。

そのまま、シグレは問答を続けようともせず、立ち去ろうとするが。

 

 

「…待って!」

 

 

女性に呼び止められ、シグレは足を止め、自分の肩越しに振り替える。

女性は立ち上がっており、服についた雪を払ったのか、汚れはなかった。

 

 

「……アタシも、一緒に行く」

「………は?」

 

 

女性の言葉に、シグレは少しだけ睨みを利かせ、たった一文字の返事で返す。

それに多少怯む女性だったが、それでも負けずにシグレの目をまっすぐに見る。

 

 

「アタシも…アナタと一緒に行く」

「…来てどうする」

「アナタと一緒に、戦う」

「…何のために」

「…アナタを、守るために」

「それで自分が死ぬかもしれない。それでもか」

「っ…それは、アナタも同じでしょ?」

 

 

女性の言葉に、シグレは返さない。

なぜなら事実だから。

尤も、それを事実と認識して尚、シグレは進み続けているわけだが。

 

 

「アナタがどうしてこんな無茶なことをしているのかは気になるけど、聞かないよ。でも…お願いだから、こんな命を捨てるような無茶はしないで」

「……別に命を捨てているつもりはない」

「つもりはなくても、そうしてるようにしか見えないよ…!アナタにもいるんだよ、アナタが死んだら悲しむ人が…」

 

 

シグレは言われたことを思い返す。

自分が死んだら悲しむ誰か。

確かに、普通はいるだろう。

家族、友人、身の回りの人々。

親しい人が死ねば、大体の人は辛いだろう。

そんな事は分かっている。

 

 

「…少なくとも、俺にそんな存在はいない。生きていればそれでよし、死んだところで少なくとも悲しむ人間も、困る人間もいない」

 

 

シグレはそれだけ返す。

シグレが両親を喪った時から信じ続けてきた、たった一つの不変の事実。

 

 

「それがあるから、俺はここまで来れた…仮に違っているとしても、それを信じるだけの根拠もない…だからこそ、俺がこの世界の終りに向けて矢面に立てば、現実で悲しむ人間が少なくなる」

「…だから、これからも迷宮のボスに…最前線に1人で、これからも挑むつもりなの?」

「そうだ。これが…最善の攻略法だ。そしてそれは…誰かを巻き込んでいい方法ではない」

 

 

シグレは女性に背を向ける。

問答は終わりだ、と言わんばかりである。

 

 

「…待ってよ」

 

 

シグレが一歩を踏み出した瞬間、女性に止められ、再度足を止める。

 

 

「それでもアタシは…アナタを一人では行かせないよ」

「…単に攻略をしたいのなら攻略組にでも入ればいいだけのことだ。何故そこまで俺に固執する」

「それは…」

 

 

シグレにとって一番の疑問をぶつける。

しかし、女性から答えは返ってこない。

明確な意思こそあるが、一番の理由は話したくない、といったところなのだろうとシグレは察する。

そういう意味では、シグレも同じだから気づくことができたのかもしれない。

帰りを待つ者がいない、とは言っているが、その理由を話すつもりがないシグレ。

言葉を詰まらせ続ける女性に、シグレは一つ溜息を吐き。

 

 

「…どうあっても、俺についてくるつもりか」

「……うん」

「俺は最前線に挑む。そうなれば戦いでお前に構う余裕はないだろうし…そんなつもりもない。足手まといになるようなら置いていく…それが条件だ」

「それって…」

 

 

シグレの言葉に女性は少し驚いたようにシグレを見る。

 

 

「…その条件でいいのなら、好きにしろ」

「うん!」

 

 

何が嬉しいのだろうと、疑問に思うシグレは一つ溜息。

 

 

「アタシはストレア。よろしくね、シグレ」

「……あぁ」

 

 

さっきまでの真剣な表情はどこへやら、楽しそうに言うストレアにシグレはただ、やれやれ、と思うだけ。

そんなシグレの口元には、呆れ半分の笑みが、ほんの少しだけ浮かんでいた。

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