ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第30話:MHCP

その後、ストレアから話された内容は、シグレからすれば驚きばかりであった。

 

 

「…メンタルヘルス…カウンセリングプログラム…ね」

 

 

意味から考えれば、カウンセラーのようなものだろうか。

とりあえず確実なのは、

 

 

「あんまり…驚かないね」

「いや、これでも驚いているんだが?」

「えっ」

「えっ」

 

 

よく分からないやりとりを交わしながら、ストレアはぷっ、と噴き出した。

けれど、すぐに真剣な表情に戻り。

 

 

「…アタシのこと、怒ってる?」

「………何故そう思う?」

 

 

突然申し訳なさそうにするストレアに単純に疑問。

シグレは尋ね返すが。

 

 

「だってアタシ…騙してたんだよ?シグレの事騙して、一緒にいたのに…」

「…だがお前は、俺を2度助けた」

 

 

だから、そんな些細なことはどうでもいい、とシグレは続ける。

ストレアはそこまで言われ、うん、と小さく返す。

 

 

「あのボスのモンスターは…アナタが戦っちゃダメ」

「…それはどういう意味だ?」

「ここまでボスを何度も単独撃破してきたプレイヤーとして…カーディナルは、アナタを監視してるの」

 

 

監視、という不穏な言葉に、シグレは真剣な視線に戻す。

無言で先の言葉を促し、ストレアはそれを察したかのように頷いて続ける。

 

 

「公平性を保つという意味では、ボスを単独で撃破できる力を持つ貴方は十分に危険因子たりうると判断されてる。そして、アナタを排除する…という方向で動き始めた」

「……普通にプレイしているだけだというのに、危険因子か」

「普通のプレイヤーはソロでボスに挑まないよ…」

 

 

普通の基準がおかしい、と暗にシグレに突っ込みを入れながら。

 

 

「…とにかく。カーディナルはアナタを排除するため…この層のボスのステータスを変更した」

 

 

そこまで言われ、シグレはストレアがあそこまで必死に戦いを止めた理由を理解した。

しかし、ストレアはカーディナルの下で動く人工知能だというのなら。

 

 

「もしそうなら、あの場で戦闘を止めては、まずかったのではないか?」

「…やっぱり、そう思うよね」

 

 

シグレの推測を、ストレアは否定しない。

 

 

「その通りだよ、シグレ。私はあの時、カーディナルに逆らった…それが理由で、今、蓄積されたデータのエラーチェックがされてる…リフレッシュが完了したら、きっと全てが初期化される」

「……」

 

 

エラーを自己修復するカーディナル。

今のストレアをエラーとみなすなら、初期化は免れない。

だとすれば、ストレアの言うことは事実だろう。

それが意味するところは。

 

 

「…でも、アタシ…やだよ。シグレの事、忘れたくない…!やだ…!」

 

 

それに力なく抗おうとしているのか、ストレアがシグレに縋るように抱き着きながら。

 

 

「この暖かさを…!シグレに対する気持ちを…仮初のものだとしても……忘れたくないよ…!」

 

 

ストレアはついに泣き出してしまう。

シグレは落ち着かせようと、ストレアの頭を撫でてやる。

言いながら、シグレは考えるように。

 

 

「……お前は、カーディナルへのアクセスは可能か?」

「え…?うん…基幹部分へは無理だけど…」

「なら…頼む。少し…考えがある」

 

 

シグレのいう考えが何なのかを知っていたわけではないが、ストレアは言われた通りにアクセスを開始する。

とはいってもコンソールからのアクセスではないため、できることが非常に限られている。

けれど、それでも。

 

 

「…なるほど。十分だ」

 

 

アクセスされた内容に、シグレは一言だけ言い、オブジェクト化された内容に手を触れる。

 

 

「忘れたくないのなら、忘れなければいい…ある意味では、人のそれより、守るのは簡単だ」

「何を、言って……」

「…お前は言ったな…忘れたくない、と。なら手を貸すが…俺を信じられるか?」

 

 

シグレの言葉にストレアは一つだけ頷き。

 

 

「…ん、信じる…信じるよ。だから…アタシを、助けて…!」

 

 

それだけを言い、ストレアは目を閉じた。


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