ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレは特段、コンピュータに詳しいわけではない。
だから、全てを理解しているわけではないし、今ここで何かをすることで、助けられるという保証があるわけでもない。
「…俺にできることは、これしかない」
仕入れたばかりの刀を手に、システムに向ける。
今振るう力は、敵を倒すための力ではない。
『…剣を持つ者が、その使い方を間違えてはならない』
それは昔、父親に言われたこと。
力を振るうこと、剣を持つことの重み。
『答えろ、時雨……お前は何のために、剣をとる?』
思い出す、父の言葉。
剣を振るう事は、暴力になる。
だから敵を倒すために、剣を振るう。
シグレ…華月時雨は、父の言葉を反芻しながら、剣を構える。
狙う先は、ストレアによって展開、オブジェクト化されたカーディナル。
その瞬間…刀を握る手に、ほんのりと感じる温かさ。
…そんなことは、あるはずがない。
ないはずなのに、そこには。
幼くして亡くしたはずの、父の姿があった。
幻影と断ずるのは、簡単なこと。
けれど、そう感じさせない力強さは、確かに自分が背を追いかけた父のもので。
「……っ!」
無言で、視線の先にシステムを捉え、一閃。
オブジェクト化されたシステムの一部が光の破片となり消し飛ぶ。
次の瞬間、システムが異常アクセスと判断し、シグレとストレアを弾き飛ばし、システムは閉じてしまう。
シグレは咄嗟に刀を落として弾き飛ばされたストレアを支える。
片手でストレアを支えながら、刀を再度握る。
その手には、もう先ほどの温もりは、残っていなかった。
「…」
ふと、腕の中で気を失っているのか、目を閉じたままのストレアに視線を落とす。
息をしてはいるようだが、仮想世界のそれが、生きている保証といっていいのかどうかは、シグレには分からない。
今も、ストレアのメンテナンスが続いているのかどうかを確かめる術はない。
仮に、メンテナンスが継続し、ストレアの記憶が消去されたなら、その時はその時と、シグレは考えていた。
そうなれば、ストレアと一緒にいる理由はない。
…そうなれば、単独行動に戻ればいい。
シグレにとっては、至極単純なこと。
その結論が出るのが、すぐなのか、それとも時間が経ってからか。
今はまだ、分からない。
ストレアの意識が覚醒すれば、分かることではある。
「…」
その寝顔は、普通に寝ているそれと変わらない。
なんだかんだで、膝枕になっているが、どうせ目を覚ますまで。
その程度なら、まぁいいか、などと考えながら、シグレはストレアの覚醒を待つことにした。