ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Strea ***
あれから、どの位経っただろう。
数分とも、数時間ともとれる感覚。
「…っ」
次の瞬間、アタシの中にある、何かが切り離された気がした。
そして数秒後、アタシの体は、何かに弾き飛ばされた。
けれど体に衝撃は来ない。
代わりに感じるのは、温かさ。
シグレが支えてくれたのかな?
「…おい、聞こえるか?」
「ん…」
微睡みに身を委ねていると、シグレに声を掛けられ、目を開く。
目を閉じた先には、心配する様子も何も表情に出ていない、いつものシグレの表情。
少しくらい心配してくれてもいいんじゃないかなぁ、と思ったのは秘密だ。
次の瞬間、私はある違和感に気づく。
私の記憶のメンテナンスが中断されていたのだ。
「え…なんで……?」
それだけではない。
カーディナルからのアクセスが来なくなっていた。
きっと、もうアタシからのアクセスもできないだろう。
つまりそれは、アタシという存在が完全にカーディナルから切り離されてしまったわけで、早い話NPCになってしまったようなものだろう。
「シグレ…?」
「…どうやら、うまくいったのか」
シグレの名前を呼ぶと、シグレは小さく笑みを浮かべる。
その様子に、アタシも笑みが零れた。
「…そうかも。メンテナンスが中断されてるし」
手を伸ばし、シグレの頬に掌をあてる。
シグレの手はアタシを支えているので、やりたい放題だ。
「ところで、カーディナルにアクセスできなくなってるんだけど…?」
「…半ば強引に、切断したからかもしれないな」
「強引に?」
アタシが尋ねると、シグレは傍らに落ちた剣を拾い。
「…こいつでな」
「……え?」
つまり、シグレは刀でアタシとカーディナルの接続を、斬った?
その説明があまりに無茶苦茶すぎて。
「あ、あっはははは!そんな無茶苦茶だよシグレ!!」
思わず笑ってしまう。
普通、もっとこうキーを操作するとかいろいろあると思っていたのに、予想以上に原始的な方法だった。
「……でも、カーディナルから切り離されたってことは、私はもうMHCPじゃないね、きっと」
「だとすれば、立場的にはNPCとさほど差異はないか」
実際、プレイヤーの監視システムへのアクセスもできなくなってる。
これじゃプレイヤーと大差ないんじゃないかな。
「アタシ…シグレに傷物にされちゃった」
「…人聞きの悪いことを言うな」
「あぅっ…」
意味深な感じで呟くと、シグレに額を小突かれ、声が出てしまう。
でも実際のところ、プログラムは切り離されたのだから間違ってはいない。
いないんだってば。
「アタシのプログラム、どうなっちゃうんだろ…いくら切り離されてもカーディナル下にあったら、いずれは消えちゃうんじゃ…」
「……それなら、俺のSAOのセーブデータに保存すればいい」
呟くと、シグレは答えを返す。
その答えにアタシはもう一度シグレを見る。
「いいの?それってつまり、アナタとずっと行動を一緒にすることになっちゃうし、迷惑なんじゃ…!」
それは本心だった。
シグレの提案を受け入れれば、アタシは確かに消えずに済むかもしれないけれど、迷惑をかけてしまうのではという不安はあった。
けれど、それに対し。
「……もう慣れた」
「そっか…じゃあ、移行するね」
目を閉じて言うシグレに、感謝を込めながら移行を開始する。
きっと彼のアイテムストレージに私は入ることになるだろう。
やがて、移行が完了し。
「それにしても、そっかそっかー」
「…なんだ」
「シグレはすっかり、アタシがいないとダメになっちゃったんだなーって」
「……もう寝ろ」
アタシの言葉に、シグレはアタシを下ろし、剣を拾い上げて立ち上がった。
やっぱり、根っこは素っ気ないなぁ。
「もう、シグレのいけずー」
アタシも立ち上がり、シグレの後を追う。
「シグレ…アタシを助けてくれて、ありがとね」
「…借りを返しただけだ」
アタシがやったことに比べれば、シグレがやったことは十分すごいことなんだけどなぁ。
「ね…今日は一緒に寝よっか」
だから、何があってもシグレは最後まで、アタシが守ってあげるからね。
*** Side Strea End ***