ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Sinon ***
先輩が搬送されてから、私は毎日病室を訪れていた。
来て何をするでもない。
「……」
私は、学校鞄の中から、普段から読んでいる小説を取り出し、お見舞いに来た人用の椅子に腰掛け、読み始める。
この部屋は個室の割に、誰もお見舞いに来ないので、彼に繋がれた医療器具の装置が出す音だけが響いている。
今出来るのは、先輩が生きていて、まだ帰ってくる希望が失われていないこと。
…私がいない間に、彼が死んでしまうことを、私は恐れている。
だから、私はこうしてお見舞いに訪れている。
…それにしても。
「先輩の家族はどうしてお見舞いに来ないのかしらね…」
医者の人が家族に関する情報を手に入れられていないのだろうか。
別に両親でなくても、親戚でもいいのではないか。
しかしながら、親戚すらお見舞いに訪れない。
いくら何でもおかしいのではないかと思う。
「……」
あの事件があったとき、先輩が私を守ってくれた。
だから私はこうして、会えなかったとしても先輩を支えに頑張れた。
そんな先輩は、誰かに守られたのだろうか。
…もし、誰にも守られず、たった一人だったとしたら。
さすがにそんなことはない、はず。
はずだけど…もしそうだとしたら。
「っ……」
そんな事を知らず、守られてただけの自分が恥ずかしくなってしまう。
先輩の事を詳しく知ってるなんて烏滸がましいことは言えないけれど。
それでも、私がもっと彼のことを知って、彼の支えになれていたら、などと考えてしまう。
「お願い…無事に……!」
いつしか本を読むことも忘れ、眠り続ける先輩の手を握る。
あの時、先輩がいなくなってから、ずっと会いたいと思い続けていた。
会って一言、お礼を言いたかった。
色々と話をして、仲良くなれたら、と考えていた。
隣を歩いて行けるほど強くないかもしれないけど、歩いていけるように、強くなりたい。
「…先輩」
今頃になって気付くなんて、とは思っているけれど。
きっと私は先輩に…恋をしている。
愛する人を待ち続けるなんて小説みたいかもしれない。
ふと、現実は小説より奇なり、という言葉が脳裏を過る。
今となっては本当にそうだと思う。
けれど、そんなのはいいから。
普通でいいから。
「何度でも…言うから。無事に戻ってきて…!待ってるから…」
先輩が生きて戻ってくるまで、何日でも私は待ち続けます。
だから、もし私がこの言葉を伝えたら。
先輩は…答えてくれますか?
*** Side Sinon End ***