ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
しかし。
「んっ…んんっ!」
サチのわざと、と言われなくてもわかるレベルの咳払いで中断させられる。
別に恋人同士という関係でもないので、後ろめたいことではない、はずなのだが思わず声をかけるのをやめてしまうのは何故なのか。
脇でストレアが笑っているのはこの際見なかったことにする。
「……シグレ。私たちの事は話したよ。そしてストレアさんのことも聞いた。けど、まだ聞いてないことが残ってる」
サチはすぐに真面目な表情に戻る。
そして、その目は真っすぐにシグレを見据えている。
「シグレはどうして、無茶をしているの…?」
「…そうね。一人でフロアボスに挑み続けるなんて、無謀以外の何物でもないわ。結果として死者は減っているとしても、貴方がそこまでリスクを冒す必要はないはずだわ」
普通に考えればアスナの言う通りであろうことはシグレでも理解している。
「……俺がこうする理由は、アスナ、お前には話したはずだが」
「えぇ、聞いたわ。どうせ死ぬなら足掻いて死にたい。その理由は私も同じ。だからこうして戦っている」
けれど、とアスナは続け。
「足掻いて死ぬのと、考えなしに死にに行くことは全然違うわ。そして今の貴方は結果的に生きてはいるけど…後者のようにしか思えない」
「……」
「それは、貴方が帰りを待つ人がいないって言ってた事と関係が…っ」
アスナが追及を続けようとしたところで、ハッとなって言葉を止める。
シグレが睨みつけるような視線を返してきたからだ。
「そこから先は、この世界より先の話だ…そこに踏み込ませるつもりはない」
「…ごめんなさい」
シグレの言葉に一瞬部屋が沈黙に包まれる。
それを打ち破ったのは。
「まぁ、そういう事は無理に聞くものじゃないよな。それはそうと…シグレに一つ言っておきたいことがあるんだ」
「…何だ?」
キリトだった。
空気を読んでいるからこその話題転換だった。
「これ以上、一人でボスに挑むのはやめろ」
「…は?」
「お前の心配も半分だが、それとは別に他のプレイヤーのためでもあるんだ」
キリトの言葉にシグレは先を促すように彼を見る。
「かなりの数のボスが単独撃破されたって事実はそこそこ知れ渡ってる。それがお前ってとこまでは広まってないが…」
「…それがどうした」
「そのせいで、フロアボスが実はそれほど脅威じゃないんじゃないかって認識になりつつあるんだ」
シグレはそこで一瞬言葉を止める。
確かに、ソロで撃破できるとなれば、フィールドにいる、いわゆる雑魚敵となんら変わらない。
もしそれで経験が浅いプレイヤーが迂闊にボスに挑んでいけば、命の危険を免れることはできないだろう。
「まずい流れができつつあるな…」
「あぁ。このままお前がソロで挑み続ければ続けるほど、より上の階層で死者が出る可能性が高い」
「……そうか」
そこまで言われ、シグレは少し考える。
このまま挑み続けるか、それともキリトの忠告を受け入れ、一人で進むのを辞めるか。
「…話は理解した。だが…」
言いかけて、今度はシグレが言葉を止める番だった。
アスナとサチに睨みつけられたからだ。
そうなれば。
「……分かった」
シグレには白旗を上げる以外の選択肢はなかった。
とはいえ、一人で行動する分には、と考えていたのだが。
「ちなみに、今後は私達も貴方と行動させてもらいます」
「…もし勝手にどこか行っても、全力で追いかけるから」
アスナとサチに言われ、その考えも止まる。
現にこうして追いつかれている以上、彼女らの言葉が本気だと信じざるを得ない。
「アナタの負けだね、シグレ?」
「……」
ストレアに面白そうに言われ、シグレはそれ以上は何も言わなかった。