ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
「HAHAHA!いいねェ、楽しいよぉ…楽しいよなぁ!?」
「…ちっ」
何度も武器をぶつけながら。
シグレとフードの男は互いに決定打を与えられずに互いの攻撃を払っていく。
とはいえ、楽しそうに包丁を振るう男に対し、シグレは打ち込みをやめない。
「…なるほどなるほど?剣の腕はなかなかのようだが…殺すことには慣れてないようだなぁ?」
「慣れてたまるか…そんなもの」
「HAHAHA」
打ち込みを軽く受け流す相手に、決定打を与えられないシグレ。
徐々に、戦いの慣れによる差が生まれ始めてきた頃。
「…だが、不思議だなぁ?お前の眼は……殺しを知ってる眼だ。一度でも生身の人間を斬ったことがある……俺と同じだ」
「…っ!」
疑問を投げかける相手からの足払いを受け、シグレは一瞬バランスを崩す。
そこに相手の包丁が襲い掛かろうとするが、すぐにバックステップで距離を取り、間一髪で攻撃をかわす。
けれど相手は追撃をせず、包丁を持った手を下ろしながら。
「…いけねぇ、いけねぇなぁ。せっかくの楽しい殺し合いなのに、躊躇ってやがるな?さんざん今までうちのメンバーを葬ってくれたくせによぉ?」
言いながら、男は楽しそうに笑う。
「……見たところ、貴様はリーダーかそれに値する存在だろう。なら無力化して捕らえる方がいいかと考えただけだ」
「そうかいそうかい。尤も無力化なんてできるのかねぇ?」
フードの男は、僅かに視線をシグレに向けながら。
「それに…貴様には俺を殺す理由はあると思うぜ?幻影の死神…いや、華月時雨君?」
「っ!?」
知っているといわんばかりに、シグレの本名を呼ぶ相手。
突然のそれに、シグレは一瞬動揺する。
けれど相手はその隙を突くわけでもなく、ただ話を続ける。
「なんで、知ってると思ったか?…簡単なことさ。俺はアンタのことを知ってるんだよ…正確にはアンタの父親のことをな?」
「な、に…を……!」
父親のこと。
何を知っているのだろうか。
動揺を隠せず、シグレは言葉を震わせながら先を促す。
もはや、戦いの雰囲気は霧散していた。
「知ってるさ。今…このゲームが始まる10年前の、11月7日」
「っ…!」
その日は、シグレも忘れもしない。
父親が、死んだ日。
……否、殺された日。
数多の屍が、腐敗臭を漂わせながら転がる大地で、目の前で討たれる父。
その背後にいたのは、全身フードを纏って顔は見えなかったが。
「っ…!」
殺した相手が持っていた武器の記憶を辿り、それが目の前の男が持つそれと一致した。
その事がシグレの衝動を呼び覚ます。
その時、自分がどうやって目の前の男から逃れたのかは思い出せないが。
「思い出せたかい?」
声は思い出せないが、風貌があまりにも似すぎていた。
そして、シグレの父親が殺された日を知っている事。
シグレが殺意を湧かせるには、あまりに十分すぎる事実。
「貴様…か……!」
垂らした腕に握られる刀。
やがて、ゆらりとその腕が上げられ。
「…っ貴様だったのか!」
シグレを知る人間からは信じられないほどの声量で吠え、衝動に任せて斬りかかる。
けれど、男はひらりとそれをかわす。
「おぉ、いいねェ!やっと…やっと『殺し合い』ができそうじゃないか!?なぁ時雨君よぉ!」
「っ…貴様は……!」
殺意を剥き出しにするシグレに、男は実に愉快に笑う。
――狂った男と、狂わされた男の戦いが始まった。