ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第44話:狂い、狂わされ

「HAHAHA!いいねェ、楽しいよぉ…楽しいよなぁ!?」

「…ちっ」

 

 

何度も武器をぶつけながら。

シグレとフードの男は互いに決定打を与えられずに互いの攻撃を払っていく。

とはいえ、楽しそうに包丁を振るう男に対し、シグレは打ち込みをやめない。

 

 

「…なるほどなるほど?剣の腕はなかなかのようだが…殺すことには慣れてないようだなぁ?」

「慣れてたまるか…そんなもの」

「HAHAHA」

 

 

打ち込みを軽く受け流す相手に、決定打を与えられないシグレ。

徐々に、戦いの慣れによる差が生まれ始めてきた頃。

 

 

「…だが、不思議だなぁ?お前の眼は……殺しを知ってる眼だ。一度でも生身の人間を斬ったことがある……俺と同じだ」

「…っ!」

 

 

疑問を投げかける相手からの足払いを受け、シグレは一瞬バランスを崩す。

そこに相手の包丁が襲い掛かろうとするが、すぐにバックステップで距離を取り、間一髪で攻撃をかわす。

けれど相手は追撃をせず、包丁を持った手を下ろしながら。

 

 

「…いけねぇ、いけねぇなぁ。せっかくの楽しい殺し合いなのに、躊躇ってやがるな?さんざん今までうちのメンバーを葬ってくれたくせによぉ?」

 

 

言いながら、男は楽しそうに笑う。

 

 

「……見たところ、貴様はリーダーかそれに値する存在だろう。なら無力化して捕らえる方がいいかと考えただけだ」

「そうかいそうかい。尤も無力化なんてできるのかねぇ?」

 

 

フードの男は、僅かに視線をシグレに向けながら。

 

 

「それに…貴様には俺を殺す理由はあると思うぜ?幻影の死神…いや、華月時雨君?」

「っ!?」

 

 

知っているといわんばかりに、シグレの本名を呼ぶ相手。

突然のそれに、シグレは一瞬動揺する。

けれど相手はその隙を突くわけでもなく、ただ話を続ける。

 

 

「なんで、知ってると思ったか?…簡単なことさ。俺はアンタのことを知ってるんだよ…正確にはアンタの父親のことをな?」

「な、に…を……!」

 

 

父親のこと。

何を知っているのだろうか。

動揺を隠せず、シグレは言葉を震わせながら先を促す。

もはや、戦いの雰囲気は霧散していた。

 

 

「知ってるさ。今…このゲームが始まる10年前の、11月7日」

「っ…!」

 

 

その日は、シグレも忘れもしない。

父親が、死んだ日。

……否、殺された日。

数多の屍が、腐敗臭を漂わせながら転がる大地で、目の前で討たれる父。

その背後にいたのは、全身フードを纏って顔は見えなかったが。

 

 

「っ…!」

 

 

殺した相手が持っていた武器の記憶を辿り、それが目の前の男が持つそれと一致した。

その事がシグレの衝動を呼び覚ます。

その時、自分がどうやって目の前の男から逃れたのかは思い出せないが。

 

 

「思い出せたかい?」

 

 

声は思い出せないが、風貌があまりにも似すぎていた。

そして、シグレの父親が殺された日を知っている事。

シグレが殺意を湧かせるには、あまりに十分すぎる事実。

 

 

「貴様…か……!」

 

 

垂らした腕に握られる刀。

やがて、ゆらりとその腕が上げられ。

 

 

「…っ貴様だったのか!」

 

 

シグレを知る人間からは信じられないほどの声量で吠え、衝動に任せて斬りかかる。

けれど、男はひらりとそれをかわす。

 

 

「おぉ、いいねェ!やっと…やっと『殺し合い』ができそうじゃないか!?なぁ時雨君よぉ!」

「っ…貴様は……!」

 

 

殺意を剥き出しにするシグレに、男は実に愉快に笑う。

 

 

 

――狂った男と、狂わされた男の戦いが始まった。


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