ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
第1話:娯楽の終わりを告げる鐘
正式サービス開始日。
時雨改めシグレは正式サービスから数分遅れてログインをしていた。
数分遅れただけなのに、周りにはプレイヤーと思われるプレイヤーが数十、数百といる。
この事から、この日を心待ちにしていたプレイヤーの多さを思い知らされていた。
「……」
始まりの町。
作成したキャラクターについては、レベルは1だが、武器の熟練度は保存されていた。
とはいってもレベルが1では敵に与えられるダメージが大きくないので、レベル上げは必須だが。
初期配布の装備として、剣一本が支給されているのはテストと同じだった。
「まずはレベル上げ…か」
剣を装備し、町の外へ出る。
辺りには、テストのときに散々相手にした猪型モンスター。
スキルは初期化されているが、通常攻撃の感覚は覚えている。
「ふっ…!」
剣でモンスター狩りを行う。
この辺りであれば、レベル1でもそれほど問題はなかった。
MMOの特徴なのか、このレベルであれば経験値の溜まりも早い。
「とりあえず武器を揃えるだけの金か…」
とりあえず、武器は揃えるべきだろう、などと考える。。
とはいえ、このあたりで稼げる金は、装備を買うという目的においてはたかが知れた程度。
稼ぐために敵を倒していれば自然とレベルが上がっていた。
「……」
剣を一振りし、魔物の血を振り払う。
その飛沫すらリアルなのはさすが、というべきなのだろうか。
狩りの為に持ってきていた回復アイテムが少なくなってきて、一度戻ろうかと考えていた矢先。
「…?」
ふと、モンスターと対峙する一人の女性プレイヤーが目に入る。
細剣を持って敵を倒しているようだが、どうやら慣れていないのか、動きに無駄があるように見えていた。
「……」
とはいえ、慣れていないとはいえ、あそこまで圧倒されるものだろうか、などと考えるシグレ。
そのことから、おそらく運動とはあまり縁がないのだろうと推測する。
「くっ…!」
ついには突進攻撃で武器を弾き飛ばされ、体勢を崩している。
あの状態で突進されたら避けようがないだろう。
「……」
助ける義理があるわけではない。
どうせ戦闘不能になっても、街に戻されるだけだろう。
だが、見てしまった以上、放置するのも寝覚めが悪い。
武器を構え。
「…っはぁっ!」
覚えたてのスキルを発動し、脇から近づき敵を撃破する。
それなりのダメージが与えられていたのか、あっさり敵は撃破され、モンスターは光の粒となって消えた。
「…平気か?」
納刀しながら倒れている女性に尋ねれば、無駄のない所作で立ち上がり。
「ありがとう。助かりました」
「礼はいい…勝手にやっただけだ」
礼を言われる。
作成したアバターだからというのもあるだろうが、美人といって差し支えない女性に笑顔でお礼など言われれば小恥ずかしいもので、思わず視線を逸らす。
「ふふっ…」
その様子が可笑しかったのか軽く笑われる。
自分でも可笑しい気がしていたので、何も言い返せない。
「…もう平気か?」
尋ねると、女性は頷き。
「ありがとう…とはいっても、ナーヴギアはお兄ちゃ…兄のものだから、頻繁に来ることはないかもしれませんけど」
「そうか。まぁいいんじゃないのか?」
「…ん」
そんな感じで軽く談笑をした後。
「それじゃあ…今日はありがとうございました。そろそろログアウトしますね」
「あぁ」
それだけ言い、ログアウトするためにメニューの操作を開始する女性。
振り返り、自分も街に戻るかと歩き出そうとしたとき。
「…あれ?」
「どうした?」
「あ、その…ログアウトボタンが……ないんです」
「は?」
一瞬耳を疑う。
そんな馬鹿な、と思い自分もメニューを操作するが。
「……」
確かに、存在しなかった。
正確には、ボタンの部分が空白になっていて、ログアウトボタンを押すことができなかった。
口元に手をやり、どういうことなのかと考えてる。
「……」
βテストの時は確かにログアウトボタンがあった。
それが正式サービスになってバグになるなど、普通は考えられない。
試作段階で問題がなかった部分が、正式サービスで問題になる。
そんな事になれば、テストの意味がない。
「…」
他にログアウトの方法があったかどうかを考えるシグレだったが、直ぐには思いつかない。
「…どうしよう。早くログアウトしないと怒られちゃう…」
「……家族がいるのなら、強制解除してもらえるのではないか?」
「そうかもしれないけど、その後のことを考えると…」
不安げに言う女性に、シグレは提案する。
外部から強制解除…すなわち、頭からナーヴギアを外せば、手段はどうあれゲームを中断できる。
「まぁ、そのあたりは事情を説明して…」
シグレは言いながら、ある考えに至り、言葉を止める。
「…?あの…?」
「……妙だとは思わないか?」
「え?」
シグレは女性に対し、言葉を続ける。
「…ナーヴギアとて所詮はゲーム機だ。電源を切るなりすれば強制切断が出来るはずだが…お前の家族は、何故それをしない?」
「そういえば…そうですね」
シグレの言葉に女性は答えられない。
シグレは一人暮らしの為、そのような考えには至らなかったが、女性には家族がいる。
だからこその疑問であるのだが、答えは出ない。
…突如、辺りに鐘の音が何度も響き渡った。