ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第47話:信じる不安 / Sinon

*** Side Sinon ***

 

 

 

こうして思いがけぬ、そして望まぬ形での再会を果たしてから、どのくらい経っただろう。

 

 

「…先輩」

 

 

病室で読んだ本はもう何冊になるだろう。

今日は読む本もないが、ただ先輩に会うためにここに来ている。

もう何度彼を呼んだだろう。

そして、何度返事が返ってこなかっただろう。

その度に、何度私は絶望に捕らわれかけただろう。

 

 

「髪…伸びすぎじゃないかしら?」

 

 

先輩の頬に手を伸ばす。

病院での措置で点滴で栄養を取っていても、日に日にやつれていくのがわかる。

初めて彼を見た時から思えば、すっかり腕は細くなり、あの時私を守ってくれたような強さがあるようには思えない。

頭に装着された、先輩を捕らえ続けているそれの隙間から、すっかり伸びた髪が少しだけ溢れ出している。

もう楽に一年は越えた彼の髪は肩を楽に超え、軽く女性のセミロングと変わらない長さになっている。

 

 

「ほんと…いつまで眠り続けるのよ」

 

 

自分でも声が震えていることがわかるくらいに目頭が熱くなる。

病室に響く無機質な機械音が彼が生きていることを伝え続けてくる。

そのことに対する安心と、これがいつ死を伝える音に変わるかという恐怖が鬩ぎ合う。

 

 

 

…この病院にはSAO事件の被害者が結構な数入院しているらしい。

1年近く前には、そこそこのお見舞いに来る人がいたが、目覚めない被害者を見舞っては絶望して帰っていく。

そんな様子をすれ違う廊下で何度も見てきた。

だからこそ分かることがある。

お見舞いに来る人が徐々に少なくなってきていることに。

 

 

「もう、沢山の人が亡くなった…っていうことよね」

 

 

見舞う必要がなくなるのは、退院をするか、亡くなるかのどちらかだろう。

しかし、SAO事件においては退院はあり得ない。

だとすれば、自ずと理由は絞られてくる。

 

 

「先輩は…死なない、わよね……?」

 

 

問いかけても、当然ながら返事は帰ってこない。

SAO事件被害者が亡くなっているのは、何もこの病院に限ったことではない。

毎日のようにニュースで死亡者が出ていることが報道されている。

そんな中で生き残り続けている先輩は、きっと凄いのだろう。

…いや、凄いのだ先輩は。

たとえ他の誰がそうではないと言ったとしても、私は考えを変えるつもりはない。

あの時先輩がいなければ、きっと今の私はいないと、そう思っている。

 

 

「先輩は私の事覚えてないかもしれないけれど…」

 

 

先輩はあの時のことを覚えているだろうか?

それとも忘れてしまっているだろうか?

どちらでも構わない。

たとえどちらであっても、私が先輩を尊敬し、想い続けることは決して揺らがない。

 

 

「…本当に、私を泣かせることだけは天才的に上手ね?」

 

 

けれど、ここ最近のことだけは少しだけ文句を言わせてもらっても、いいわよね。

 

 

 

*** Side Sinon End ***


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