ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
あれから、どのくらい刃を交わしているだろうか。
「そらそら、もう終わりか死神さんよ!?」
「っ…」
包丁で何度も切りかかってくる男に対し、シグレはそれを刀で幾度と弾く。
最高クラスの鉱石から打ち出した刀とはいえ、質量差はどうにもならなかった。
肉を切ることに特化した重い包丁と、金属とは思えぬ軽い質量の刀。
シグレがここまで苦戦するのは理由があった。
それは拮抗する実力だけではなく、相手が持つ明らかな殺意。
これまで、フロアボスを単独撃破できたのは、結局のところ相手がプログラム、AIの類で決まった行動しかしなかったから。
だからこそ、パターンを読むことで対応ができた。
しかし今戦っている相手はプログラムに縛られない、意思を持った人間。
それこそが苦戦の理由だった。
「ちっ…!」
相手の攻撃を捌き、バックステップで距離を開ける。
すると相手は攻撃の手を止め、その場で俯く。
「……?」
その様子に訝しげに男を見ながら、刀を持っての警戒態勢を相手に向ける。
「…だめだ、つまらねぇなぁ。全然アガらない…お前も所詮、その程度か」
絶望したかのように大げさに言う男に、ただ様子を窺う。
「だから…もう死んでいいぜェ?」
警戒するシグレの様子をものともせずに、男は先ほどまでとは比べ物にならない速度でシグレの懐まで距離を一瞬で詰める。
「っ!?」
その速度に一瞬反応が遅れ、一瞬武器を引いてしまう。
しかしその隙を相手は見逃さない。
「シッ!」
「が、は…っ!」
包丁を勢いよく振り下ろし、袈裟の方向にシグレを切り裂く。
シグレはそれに反応しきれず、ダメージを負う。
激痛に耐えながら見る相手の口元は、笑みが浮かんでいた。
「…終わりだ。お前の父親のところに、送ってやるよ」
実に楽しそうに男は言いながら武器を振り上げる。
体力も残り僅か。
どうやら、ここまでか、とシグレは諦めたように目を閉じる。
「何か言い残すことはあるか?遺言ぐらいなら聞いてやるぜ?」
「優しいことだ…が、特に遺言を残す相手もいないな」
「そうかい」
とても殺し合いをしているとは思えないほどのやりとり。
殺される寸前だというのに、シグレは不思議と落ち着いていた。
……もう、疲れた。
これまで、得るものよりも失うものの方が多かった、この人生に。
ようやく、終止符を打てる。
それを幸福と思える自分に思わず自嘲の笑みが出る。
(そういう…ことか。俺は…)
現実では誰からも疎まれ、仮想世界では一人で突き進んできた。
この世界が終われば、また疎まれる人生に戻るというのに、何故ここまで突き進んだか。
その理由を、シグレは結論付ける。
(……死に場所を見つけるために、ここにいたのか)
全てが繋がったように結論付けた瞬間、シグレは刀を手放す。
(どうやら…もうすぐそっちに行けそうだ)
両親と、二人に囲まれていた過去の自分を思い返しながら、一瞬だけ来るであろう痛みに備えるのだった。