ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第49話:彼の望みは叶わず

覚悟を決め、シグレが目を閉じてからどれだけの時間が過ぎたか。

一瞬とも、永い時とも取れる時間。

その後に聞こえてきたのは。

 

 

「させない!」

「ちっ…!」

 

 

聞き覚えのある声と共に、自分の脇を風が通る。

次の瞬間、金属同士がぶつかる音が響く。

 

 

「な…」

 

 

目を開ければ、先ほどまで死闘を繰り広げた男に対して、鋭くも速い刺突をかける栗色の髪の女性。

その女性…アスナは怯んだ相手を追い詰めるかのように攻撃を続け、体勢を立て直すには十分な時間を稼ぐ。

 

 

「やぁっ!!」

「シッ!」

 

 

そして、男の避け方を先読みするかのように槍で追撃をかける黒髪の女性…サチ。

その攻撃に対しては、男は武器を振るい、攻撃を凌ぐ。

 

 

「はあああぁぁぁっ!!」

「グっ…」

 

 

しかし、相手は武器一本。

サチの攻撃に対応している隙をついて、背後からキリトが切りかかり、ようやく斬撃が入る。

その斬撃に男は一瞬怯み。

 

 

「シグレ!」

「っ…!?」

 

 

皆が抑えているうちにストレアがシグレに駆け寄り、手に持っていた回復薬を半ば強引に飲ませる。

突然流し込まれたそれに軽く咽るシグレだったが、やがてHPが回復し、安全な範囲まで戻る。

 

 

「く、ククク…」

 

 

劣勢に立たされるも、嗤う男。

 

 

「いいねェ、さすがは『黒の剣士』ご一行様だ。少しは楽しめそうか?HAHAHA…」

 

 

武器を取り直す男に、キリト達が対峙する。

シグレはストレアに支えられながら。

 

 

「……」

 

 

疲労が溜まっていたのか、別の理由か、シグレは意識を失った。

 

 

 

それから、どれくらい経っただろうか。

 

 

「ぅ……」

 

 

ぼんやりと覚醒し始める意識の中、シグレは眉間に手をやりながら上半身を起こす。

場所は変わらず、アジトの中で、シグレだけ意識を失っていたようで、ストレアに膝枕され、サチが看病…とまではいかずともシグレを看ていた。

キリトはアスナとともに辺りを警戒していたようだが、シグレの覚醒に気づき、見張りをやめシグレに近づく。

 

 

「よ。生きてるか?」

「……」

 

 

キリトの問いに、シグレは少しだけ彼を見て、あぁ、と頷いた。

しかしすぐに辺りを見回し。

 

 

「…あれからどうなった」

 

 

シグレの独り言のような問い。

それに対し、皆がシグレが気を失っている間の経緯を説明する。

 

 

結論から言うと、逃げられた。

経緯としては、ストレアが気を失ったシグレを守るように警戒しつつ、キリト、アスナ、サチの三人で男と対峙したとの事。

シグレとストレアの二人で数を減らしていたことが功を奏したのか、それほど苦戦はなかったとの事だった。

その後、大規模に組まれた討伐隊が到着し、さすがにその数にはどうにも太刀打ちできず、転移結晶で逃亡したらしい。

その際に何人かの幹部も逃げた、とのことだった。

 

 

「…んで、血盟騎士団の団長からお前に伝言」

「俺に…か?」

「あぁ。無茶は程々に…だとさ」

「……」

 

 

伝え聞いた伝言にはシグレは返事を返さない。

ただ、何となく話しかけてくるキリトに視線を向けていると、胸元に軽く押されるような感覚。

何事かと視線を下に向ければ。

 

 

「よかった…シグレ」

「……あんまり危険なこと、しないでよ」

 

 

アスナとサチが心配を隠さずに訴える。

その思いは、シグレに届いていたかどうかは定かではないが。

 

 

「…」

 

 

肩を震わせる二人に、下手に言葉をかけずにそのままにするシグレ。

 

 

「アタシだって、すっごく心配したんだからね?」

 

 

膝枕のまま、額に触れてくるストレア。

その手は震えており、見上げた先のストレアの双眸からは涙が零れていた。

 

 

「世の男に殺されそうな光景だな、シグレ?」

 

 

キリトに言われ、今の状況を考える。

ただでさえ男女比率で男性プレイヤーが多いこの世界で、女性三人に心配されているという状況。

しかも女性は皆が皆、贔屓目に見ても美しい女性である。

確かに、世の男性からは恨まれそうな状況である。

 

 

「…どうしてこうなった?」

「俺に聞かれてもな…」

 

 

シグレ自身は多少の人付き合いはあっても、仲間を作ってとかそういうことをするつもりはなかった。

にも拘らず、この状況。

キリトに理由を聞いてみれば、苦笑して返されるだけだった。


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