ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第50話:休息と、僅かな変化

「…とりあえず、これからどうする?」

 

 

いつまでもここでこうしているわけにもいかないというのもあってか、キリトがシグレに尋ねる。

シグレからすれば主導権を握るつもりは全くなかったのだが。

 

 

「……そうだな。少し腰を落ち着ける時間が欲しい、か」

「珍しいな、シグレがそんな風に言うなんてさ」

 

 

なんとなく思ったことを言ったら軽く驚かれ、釈然としないシグレだったが。

 

 

「…そう、だな。色々あって…少し疲れた」

 

 

目を閉じながら溜息をつくシグレ。

 

 

「だったら、家を買わないか?」

「家…?」

「あぁ。22層に静かないい場所があるんだ。休むっていう目的なら、お誂え向きだと思うけどな」

 

 

キリトの言葉にシグレは少し考える。

そこまで強い印象に残っているわけではないが、22層は自然に囲まれた場所だったと記憶している。

それを考えれば、キリトの言う通り、確かに体を休める場所としては適していそうで。

 

 

「…わかった」

 

 

特に異論を述べることはしなかった。

 

 

「…そんなところでどうだ?」

 

 

三人に問いかけるシグレ。

それに対して反対意見が上がってくることはなかった。

 

 

 

そんなこんなで22層のログハウスを購入した一行。

購入の資金については、シグレが支払った。

お金としてはフロアボス討伐等の報酬があったにも関わらず、それを使うのが最低限だったため、それなりに余裕があったのだ。

 

 

「…」

 

 

ベランダから外に出て湖をぼんやり眺めるシグレ。

その風景は、これまでいた薄暗いアジトが別世界と思えるほどに綺麗な光景だった。

 

 

「いい所だね」

「…あぁ」

 

 

アスナが栗色の髪を風に靡かせながらシグレの隣に立つ。

シグレは声の主を確信しているのか、彼女に視線を向けずに少ない返事を返す。

今の彼女は戦いの時に装備している鎧を外した私服姿なのだが、その事にシグレは気付いているだろうか。

 

 

「……知らなかったな。この層にこんな場所があったとは」

「それはそうよ。だってシグレ君、攻略ばっかりだったじゃない」

「それに関してはお前も人のことは言えないのではないか?」

 

 

苦笑交じりのシグレの言葉に、アスナは少し考える。

顎に指をあて、んー、と唸りつつ考えて。

 

 

「そんなことないかも。私はどちらかというと攻略というより、君の後を追いかけてただけだから」

「俺の事など放っておけばよかったろうに」

「…それ、本気で言ってる?」

 

 

シグレが苦笑交じりに言えば、一瞬だけアスナの声が低くなる。

シグレはそれに気づいてか気づかずか。

 

 

「あぁ…本気で言っている」

「あのねぇ…!」

「…このゲームが始まってすぐ、俺がお前に言った事」

 

 

アスナが咎めようとするが、シグレが遮る。

シグレがアスナの方に視線を向ける。

彼女にはシグレの視線が冗談ではないことに察しがつき、一瞬黙る。

 

 

「…覚えているか?」

「えぇ。帰りを待つ者がいるのなら…よく考えて行動しろ、だったかしら」

「あぁ」

「…けれど、君はこうも言ったわ。『俺には帰りを待つ者がいない』って」

「そうだ」

 

 

よく覚えているな、と付け加えるシグレに、アスナは少しだけ口調を強める。

 

 

「…そんなことはありえないわよ。本当に孤独な人間なんて、この世にいないわ」

「それはお前が恵まれた人間だからだ」

「っ…そんなこと言っても、君にだっているでしょ?家族とか、親戚とか、友達とか…!」

「少なくとも、俺を気に掛ける物好きは、身内にはいない」

「そんなこと…!」

 

 

アスナの反論にシグレは視線を落とし、軽く自重するような笑みを浮かべる。

 

 

「あぁ…ひょっとしたら、そんなことはないのかもしれない。聞けば、俺の考えを否定する人もいるかもしれないな。だが…俺には、信じられない」

「どうして…」

「……」

 

 

アスナが尋ねるが、シグレは黙る。

それは、シグレがそれ以上は話すつもりはない、という意思表示をしていることに他ならない。

アスナもまたそれを察し、追及をやめる。

 

 

「…すまないが、この考えは…変えられそうにない」

「初めて会った時から…変わらないのね」

 

 

アスナは溜息交じりに言うが、すぐに笑みを浮かべ。

 

 

「でも…変わったところも、あると思う」

「……そうか?」

「うん…」

 

 

シグレの顔を見ながら、笑みを浮かべる。

 

 

「…少しだけ。表情が柔らかくなった」

「……ふん」

 

 

いつだかにストレアに言われた事と同じ事。

自分ではそんなつもりがなかっただけに余計に恥ずかしくなり、視線を湖に戻す。

その様子がどう映ったか。

 

 

「ふふっ…」

 

 

アスナは一つ笑みを浮かべながら、シグレと同じく視線を湖に戻した。

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