ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第51話:心の壁

それから少しして。

部屋に入ったシグレは買ったばかりの家の中を見回す。

 

 

「……」

 

 

大豪邸というほどではないがしっかりした造りの家。

その割り当てられた一室のベッドに腰掛け、ぼんやりと天井を見る。

窓から差す光のおかげで、木製の壁が明るい茶色に光る。

窓から見える先には暗さを感じさせない程度の雑木林が広がり、時折吹く穏やかな風が窓から入り、シグレの髪を靡かせている。

 

 

「…暇、だな」

 

 

ぼんやりと呟く。

落ち着ける時間が欲しいといったのは自分なのだが、いざ落ち着いてみると退屈が先に立ってしまう。

今となっては主として振るっている緋月も、鞘に納められた状態で壁に立てかけられている。

身に着けているのも、戦いの時に身に着けていた鎧ではなく、NPCが身に着けるレベルの私服。

現実であれば普通の青年が着ているような、そんなレベルのもの。

 

 

…中にはこんな風に、現実と変わらない生活を送る人もこの世界にいるのだろう。

それはそれで正しいのだろう。

命がかかっているとはいえ、仮想現実のゲームの世界。

どう過ごそうとも、そこに罪はない。

けれど、シグレは、自分がそうなろうとしていることに少しばかり違和感を覚えていた。

 

 

…つまりは、それでいいのか、と。

元の世界に、自分を、皆を戻すために進むと決めたのに、今は立ち止まっている。

その事が、葛藤となってシグレを苛む。

 

 

「…はい」

 

 

そんなことを考えていたら部屋にノックの音が響く。

 

 

「…私。入っても…いいかな?」

 

 

扉の外から聞こえてきたのはサチの声だった。

確か、サチはストレアに説教をしていると聞いていたが、終わったのだろうか。

 

 

「…どうした?」

「ストレア、ダウンしちゃったから…」

「……」

 

 

いったい何を言ったらストレアをダウンさせられるのだろう。

少しばかりシグレは興味を引いたが、藪を突いて蛇を出す趣味はなかった。

 

 

「…それで、どうした?とりあえず、今はどこかに行くつもりはないが」

「あ、うん、それはそれでいいんだけど…って、自覚あったなら少しは自重したら?」

 

 

シグレが言えば、サチが苦笑交じりに窘める。

どうやら深刻な話があったわけではないらしく、何となく気になって来ただけらしい。

 

 

「…隣、座るね」

 

 

言いながら、サチはシグレの返事を待たずに隣に腰掛け、自分の体をシグレに預けるように寄りかかる。

シグレからすれば、サチのそれは非常に軽く、この世界で鍛えていたステータスを考えれば支えるには余裕だった。

 

 

「……聞いてもいい?」

「?」

 

 

突然発せられるサチの言葉に、シグレは無言で先を促す。

 

 

「どうして……そこまで、壁を作ってるの?」

「…壁?」

「とぼけなくていいよ。私達が貴方に踏み込んでいけないように、貴方は壁を作ってる」

 

 

シグレの言葉に止まることなくサチは続ける。

 

 

「私達のギルドにいた時から、ね…なんとなく、分かってたよ。シグレは誰にも心を許してないし、それを隠そうともしてない」

「…そんなことは」

「あるよ…絶対ある。シグレにとっては無意識なのかもしれないけど…ね」

 

 

いつもより強い口調のサチに驚きもあり、言葉が続かないシグレ。

ギルドの中でも引っ込んでいる様子のあった彼女のその口調にはさすがのシグレも止まってしまう。

尤も、考えてみればギルドから飛び出して追いかけてくるのだから、それなりの決意はあったのだろうと今更ながらに思う。

 

 

「…仮にそうだとして、だ。俺のことなど放っておけばいいだろうに…何故ここまで俺に構う?」

 

 

攻略組で基本的にソロプレイをしているキリトやアスナとは違い、サチはギルドメンバーという仲間がいる。

更に言えばサチは攻略をメインに進める攻略組ではない。

シグレからすれば大事にすべきはギルドメンバーなのでは、と考えていたのだ。

だからこそ攻略を続けるうえで身を引いたわけだが。

 

 

「…うん。いつか、教えてあげる」

 

 

少し俯き気味になりながら言うサチに、何故今ではないのだろうという疑問を少しだけ抱きつつ。

 

 

「そうか」

 

 

シグレも一言だけ返し、部屋の中で二人、少しだけ暖かい時間を過ごしていた。

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