ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第2話:絶望を告げる紅

鐘の音に合わせるように強制的な転移が起こり、気が付けば町の広場。

シグレが辺りを見回せば、先ほどの女性も含め、皆が皆次々にここに転移しているのか、転移の光が次々に現れてはプレイヤーが増えていく。

女性もまた、何が起こったのか、と言わんばかりに辺りを見回している。

 

 

「…あ、上」

 

 

誰かの声が聞こえ、ふと上を見上げると。

 

 

『Warning』

『System Announcement』

 

 

そんな文字を持つ赤色のオブジェクトが空全体に広がっていく。

 

 

「警告…システムアナウンス……」

 

 

呟く頃には、オブジェクトが空一面を覆いつくし、空が真っ赤に染まる。

やがてオブジェクトの隙間から血を想起させる赤色の液体が流れ落ち、それが人が羽織るローブの形をとっていく。

日常に似せられた仮想世界の中に突然現れる、気味悪く感じる非現実。

皆がざわつく中。

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ…私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

 

突如現れたローブはそう名乗る。

茅場晶彦。

あちこちで話題になっている、所謂時の人、ともいうべき人物の名。

このソードアート・オンライン…ひいてはナーヴギアの開発者。

 

 

『諸君はもう、メニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしこれは不具合ではない』

 

 

不具合ではなく、仕様である。

それはつまり、自発的にゲームを終了することはできない、ということだった。

 

 

『加えて、外部からのナーヴギアの停止、或いは解除もあり得ない。もしそれらが試みられた場合、ナーヴギアの発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 

ここまでならイベントだろう、何を馬鹿な、と考える者もいるだろう。

しかし、シグレはそうは思わなかった。

何故なら、それが真実であるなら、先ほどの疑問の回答になるからだ。

 

 

『この警告を無視し、家族、あるいは友人が強制的に解除を試みた例が少なからずあり…この結果、213名のプレイヤーがこのアインクラッド、および現実世界から永久退場している』

 

 

言いながら、上空に現実のニュースの映像などを展開し、それを現実だと押し付けてくる。

その中には、プレイヤーの家族であろう誰かが涙を流している映像もあった。

おそらく、知らずにナーヴギアを解除し、死亡をしてしまったのだろう。

 

 

「…大丈夫か」

「いや、嘘よこんな……っ」

 

 

先ほどの女性プレイヤーはその場に倒れそうになるのを支える。

声をかけるが、反応がない。

というより、若干錯乱しているようにも見える。

ゲームを停止することはできない。

それはつまり、ゲームから出られないということで。

 

 

『諸君には今後、十分に留意してもらいたい。今後あらゆる蘇生手段は機能せず、HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは消滅し、同時に…』

 

 

―――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。

 

 

そういう頃にはプレイヤーは誰一人声を発しなかった。

発することができなかった、というほうが正確だろう。

ゲームの中とは思えない妙な静寂が辺りを包む。

 

 

『諸君らが解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすればよい』

 

 

ここはアインクラッド第1層。

各層のフロアボスと呼ばれるボスを撃破すれば次の階層に進むことができる。

第100層のフロアボスを撃破すればゲームクリア。

 

 

「馬鹿な…」

 

 

思わず吐き捨てる。

というのも、βテストでボスの撃破に挑んだが、第1層ですら厳しいものだった。

今、いくら慣れてきたといっても、それでも戦闘不能者0は厳しいことは火を見るより明らかだった。

だというのに、第100層。

 

 

『最後に、諸君らのアイテムストレージにプレゼントを用意した。確認してくれたまえ』

 

 

その声に、皆が一斉にメニュー操作を開始する。

 

 

「…大丈夫か?」

 

 

その声に、女性プレイヤーは小さく頷き、操作を開始した。

こちらも少し離れ、メニューを操作する。

そこにあったのは…

 

 

「…手鏡?」

 

 

アイテムを実体化する。

目の前に移るのは当然自分のアバター。

 

 

「…っ!?」

 

 

その瞬間、突然光に包まれる。

目を開いていることすら厳しい強烈な光。

だがその光はそれほど長い時間ではなく、すぐに収まる。

すると。

 

 

「…これは、俺か」

 

 

とはいえ、自分の顔をベースにアバターを作ったので、それほど驚くほどの変化はない。

しかし、周りは容姿が大きく変わったもの、あるいは性別すら変わったものもいるのか、混乱していた。

そんな混乱を知ってか知らずか、上空に浮かぶローブの茅場は言葉を続ける。

 

 

『諸君らは何故、と思っているだろう…何故、ソードアートオンライン開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか、と』

 

 

―目的は既に達成されている。この世界を作り出し、干渉するためだけにこの世界を創った。

 

 

『……以上で、ソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了する』

 

 

プレイヤー諸君の健闘を祈る。

それだけ言い残し、ローブはその場で霧散した。

 

 

「……」

 

 

夕暮れに戻った空を見上げる。

ふと握りしめた手には、無意識に力が籠っていた。


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