ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
第1層の広場へと転移する一行。
「…懐かしい、な」
ぼんやりと空を見上げながら、シグレが呟く。
かつて、チュートリアルと称して真っ赤に染め上げられた空。
もう1年以上経つのかと改めて考えていた。
「……」
ぼんやりと、宙を見上げるシグレ。
誰にも言っていないが、シグレはこれがデスゲームだと告げられた時に感じたことは、絶望でも、恐怖でもなかった。
かといって、未知のゲームが始まることに対する高揚感があったわけでもない。
あえて言うなら、何も感じていなかった。
その時の周りの様子…他のプレイヤーを見て、自分がいかに感情という面で枯れているかを思い知らされた。
周りは恐怖に怯え、絶望し悲鳴を上げ、中には投身自殺をする者すらいた。
それがいかに人の心を掻き乱したかなど、想像に難くない。
けれど、自分はなぜ平静を保っているか。
その時は分からなかったが、今となっては…
「…シグレ、聞いてるか?」
「あぁ…どうした?」
「いや、それはこっちの台詞なんだが…とりあえず、孤児院にって」
「そうか」
キリトに声を掛けられ、我に返るシグレ。
キリトはぼんやりとしていたシグレを一瞬訝しむが、いろいろ思うところがあるのだろう、と、それ以上の追及はしなかった。
ユイを背負ったキリトの先導で、はじまりの街の路地裏のような場所に入っていく。
すると。
「…子供たちを返して!!」
「お、保母さんの登場だぜぇ?」
「いよっ、待ってました!!」
奥から女性の声が響く。
それに続いて揶揄するような男性の声。
子供たち、という言葉から察するに、声の主がいる場所が目的地だと認識するのに時間はかからなかった。
「そ、そこをどきなさい…さもないと……っ!」
声の主の場所に到着すると、鎧で武装した数人の兵士に対峙して武器を抜こうとする軽装、どころか私服の女性
武器もおおかた護身用、といったところに見える。
兵士の方も一般人であると高を括っているのか、ニヤニヤと下卑た笑みで見下すように女性に向かう。
「…この程度の兵士、俺一人で十分だ。そっちは……」
「子供たちね…任せて」
速度で先陣を切っていたシグレとアスナが言葉を交わし、対峙している場所に突貫していく。
シグレは兵士と女性の間に。
アスナは軽々と兵士を飛び越え、子供達の前に。
「あ、貴方は……」
兵士に対峙することで背に庇うような状態になるシグレに女性が声をかけようとする。
けれどシグレは軽く視線を返し、すぐに視線を兵士に戻したため、殆ど顔を合せなかった。
「なんなんだ貴様達は!」
「我々軍の任務を妨害する気か!?」
その態度が気に食わなかったのか、兵士が声を荒げる。
その中央から隊長と思わしき人物がシグレの前に立ち。
「…あんたら見ない顔だが…解放軍に楯突く意味、分かってるんだろうなぁ!?」
言いながら、剣を鞘から抜き、威嚇するように振りかざす。
尤も、その程度でたじろぐ事はなかったが。
「…キリト、アスナ。子供達の目を塞いでおけ」
ゆらり、という擬音が似合いそうな自然な所作で、シグレは刀を抜く。
「…分かった」
そこからキリトが察したのか返事を返す。
アスナが頷き、子供たちを陰に誘導するのを確認する。
「…サチ、ストレア。そっちはその女性を」
「うん…分かった」
「…程々にね?」
背中越しに声をかけ、返事を聞きながら視線を兵士に向ける。
その視線、眼光にはフロアボスに対峙するときの気迫があった。