ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第58話:死神の恐怖

けれど、その事を察することができないのか、それとも所詮一般人と高を括っているのか。

 

 

「ふふ…」

 

 

剣を見せびらかすようにする隊長兵士。

構えも何もない、油断した兵士にシグレは刀を手に近づき。

 

 

「……舐められたものだな」

「あ?」

 

 

歩を止め、苦笑いしながら呟くシグレ。

その様子が、隊長の癪に障ったか。

 

 

「っ舐めるなクソガキぃ!」

 

 

大振りに剣を振り下ろす隊長。

伊達に隊長ではないということか、その剣筋はなかなかのものであった。

しかし、幾度とフロアボスに単騎で挑んだシグレにとってはそれは児戯に等しいもので。

 

 

「…ふん」

 

 

刀で受け止め、斬撃をあっさりと払う。

突然乱された剣筋に体が引っ張られて、隊長はバランスを崩し、懐ががら空きの状態になる。

シグレはその隙を見逃さず。

 

 

「…戦いに驕りは禁物だ」

 

 

懐に潜り込み、鎧に突きを叩き込む。

 

 

「ぐあぁっ!」

 

 

隊長はあっさりと転がされ、尻餅をついてしまう。

体勢を立て直させる前に、構えを緩め、けれど隙のない体勢のままシグレは近づき。

 

 

「…その程度で一個部隊を仕切る、か。解放軍とは名ばかりか」

 

 

言いながら、切っ先を隊長の首筋にあてる。

これでは攻略どころか、一層のフロアボスすら、とシグレは考える。

 

 

「くっ…この…!」

 

 

隊長は反撃の機会を窺ってか、幸いにも手元近くにあった剣を拾い上げ。

 

 

「舐めるな、小僧が…!」

 

 

剣を振り上げようとするが。

 

 

「……」

 

 

それに動揺の一つもなく、シグレは剣を持っている手の側の肩に容赦なく刀を突き立てる。

 

 

「ぎ、あぁぁっ!!!」

 

 

その痛みに耐えきれず、隊長は悶え、刀を落とし、地面に転がり肩を押さえる。

 

 

「…ここは圏内だ。痛みはあるだろうがHPは減少しない…つまり」

 

 

転がる隊長に狙いを定め、地面から切り上げるように刀を振るう。

けれどシステムの保護がかかったか、バチ、と音を立て、隊長は吹き飛ばされるだけで済んでいる。

押さえている肩でさえも出血、あるいは傷の一つもなかった。

 

 

「痛みもなく、死の恐怖が味わえる…ということだ」

 

 

刀を兵士たちがいる方に構え、臨戦態勢をとる。

 

 

「お、お前ら…見てないで何とかしろぉ!」

 

 

隊長の言葉に兵士たちも武器に手をかけるが。

 

 

「……」

 

 

先程の隊長のやられ方を目の当たりにしたからか、柄に手をかけるだけでそれ以上踏み込んでくる者はいなかった。

 

 

「ひ、ひいぃぃ!!!」

「たすけ…助けてくれえぇぇ!!」

 

 

一人が逃げ出し、また一人逃げ出し。

残ったのは隊長一人で。

 

 

「……」

 

 

まだやるのか、と言わんばかりの威圧感を纏ったシグレが近づき、再度刀の切っ先を首筋にあてると、隊長は先ほどの恐怖もあってか、あっさりと気絶した。


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