ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第59話:少女の異変と、思いがけぬ再会

刀を納め、振り返り。

 

 

「…もういいぞ」

 

 

皆に声をかける。

すると皆が集まり、保母であろう女性がお礼を言おうと近づく。

 

 

「あ、あの…ありがとうございます。おかげで…っ!?」

 

 

助かりました、と続けようとした女性は、それ以上言葉を繋げなかった。

それは、驚きによるもの。

なぜなら女性は…その相手の顔を、知っていたから。

 

 

「華月…君……?」

 

 

女性は口元に手を当てながら、シグレの名を呼ぶ。

ここではない、現実の華月時雨の名を。

一方のシグレも、そう呼ばれた事と、女性の雰囲気から一つの記憶を思い出す。

かつて、親を喪ってからの少しの間、自分を含めた子供達を保護した孤児院の保母である、その女性を。

 

 

「……先、せ…い?」

 

 

思わぬ再会に、シグレもまた、驚きに言葉をなくす。

その様子に、サチやストレアは疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

その一方。

 

 

「あ……!」

 

 

キリトに背負われたユイが、何もない、青空に手を伸ばす。

 

 

「みんなの…みんなの、心が……!」

「ユイ…?どうしたんだ、ユイ!」

 

 

何かに怯えるように、けれど伸ばさなければならない、というように。

 

 

「私、私は…ここには、いなかった…ずっと、一人で……!」

 

 

何かを思い出すように、けれど震えながら。

 

 

「ユイちゃん!?」

 

 

近くにいたアスナが駆け寄り、落ち着かせようと近づいた瞬間。

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

突然叫びだしたユイ。

それと同時に周りにいる皆の感覚を揺さぶるような強いノイズ。

 

 

「ぁ…」

 

 

やがてノイズが収まると同時にユイが気を失い、キリトの背から手の力が抜けて落ちそうになる。

それをアスナが急いで抱き止め、大事には至らなかった。

 

 

「な、何なんだよ…これ……?」

 

 

キリトは茫然自失といった様子でぼんやりと呟くのが精一杯だった。

 

 

ユイの異変の後、一行は孤児院の一室を借り、そこにユイを休ませる。

 

 

「すみません、場所を貸して頂いて」

「いえ、いいんです。これでは助けていただいたお礼には足らないかもしれませんが…」

 

 

キリトがお礼を言う。

女性はそれでも申し訳なさそうにし、キリトはどうしたものかと苦笑するが。

 

 

「…アナタに聞きたいことがあるの」

 

 

そんな彼女に、少しだけ真剣な表情でストレアが声をかける。

どうしたのだろうと皆が見守る中。

 

 

「シグレがアナタの事、先生、って呼んでたのを聞いたんだ……シグレの事、知ってるの?」

「…おい」

 

 

何を、と続け、ストレアを止めようとするシグレ。

しかし、止めようとするのはシグレのみだったようで。

 

 

「私も…知りたいです」

「…私も」

 

 

アスナも、サチもストレアに続く。

残るキリトはというと。

 

 

「…そうだな。シグレがここまで無茶をする理由がそこにあるなら、知りたいと思うよ」

「……」

 

 

どうやら、シグレには味方はいないようだ、と。

 

 

「無茶って…華月君、一体…」

「…一応言っておくが、ここでは俺はシグレだ。そう呼んでもらえるか…サーシャ先生」

「あ、そ、そうね…シグレ、君…ね」

 

 

名前を訂正し、二人がどこから話すか、と考えていたところ。

 

 

「…話せる限り、最初から知りたい。無茶の理由、それに人と関わろうとしない理由。そう簡単に説明できることじゃないだろ?」

 

 

キリトの問いにシグレは少し考え。

 

 

「…そう、だな。だが聞いて面白い話ではないと思うが」

「最初から楽しい話は期待してない」

 

 

やれやれ、と溜息をつくシグレ。

どうやら話さずにこの場を流すことはできないようだ、と察した。

 

 

「シグレ君、私に言ったでしょ?帰りを待つ人がいない…って。本当に帰りを待つ人がいない人なんて…いないって私は思う」

「…それに、少なくともこうして関わってる私は…私達は、貴方にも無事に帰ってほしいって、思ってるよ?」

 

 

アスナが、サチが言葉を続ける。

 

 

「…分かった。なら少しだけ、昔語りをするか」

 

 

やれやれといった感じのシグレに皆が意外そうな顔をする。

 

 

「話してくれるんだ…てっきりもっと渋られるかと思ってたけど」

 

 

ストレアが皆の気持ちを代弁するように言うと。

 

 

「…あまり楽しい話ではないからな。聞くのを止めるのなら今のうちだが」

 

 

その言葉に、聞くことを止める意見を出す者も、席を立つ者もいない。

つまり、皆が止めるつもりがない、ということなわけで。

 

 

「……まぁいい」

 

 

やれやれ、といった感じのシグレは思い出すように言葉を続ける。


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