ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第61話:過去 - II

事件のことを、シグレは目を閉じて語りだす。

 

 

「…数年前に起きた、郵便局での強盗未遂事件。強盗犯のみの死亡で片が付いた事で、実際には強盗未遂だが」

 

 

その言葉に、キリト、アスナ、サチは一瞬呆ける。

単純に、覚えがないのかもしれない。

それも無理もないだろう、とシグレは考えていた。

 

日々メディアで報道されるニュース。

その中に、この事件も存在していた。

けれど、同時にいくつも報道されるニュースがあれば、特別意識していなければ覚えていることも少ないだろう。

 

 

「…アタシ、それ知ってる。強盗犯が金銭目的と思われる動機で入るも、金銭に被害はなし。持っていた銃の暴発により強盗犯はその場で死亡、それ以外の被害者は無し」

 

 

ストレアが答える。

それは、一般的に知られている情報として正確なものだった。

 

 

「一般にはそう知られている事件だが……真相は少し違う」

「それって、どういう…」

 

 

シグレの否定に、キリトが疑問を返す。

 

 

「…俺もその現場にいた。木刀を持って…な」

 

 

疑問に返すように、シグレは言葉を続ける。

 

 

「確かに犯人は銃を持っていた…が、当時の俺は何を思ったか、木刀を手にそいつに対峙した」

「銃に木刀で…!?」

 

 

サチが驚くように言う。

普通に考えれば、鉛の玉と木製の刀。

銃を撃たれれば簡単に撃たれるか、運よく刀に当たっても木刀が破壊されるだけ。

 

 

「…犯人が銃に慣れていないのが幸いだったな。すぐには発砲しなかった…その隙をついて手元を狙い、照準をずらさせた」

 

 

数年前、というからには少年、と呼べる年齢だろう。

にもかかわらず、失敗すれば命の危険というレベルの事に対処が出来たというのは、俄かには信じ難い。

 

 

「俺はそいつの銃を叩き落し、そいつを二度打ち抜いた…一度目は腹。そして二度目は、頭。いうまでもなく即死だった」

 

 

そうした事に後悔はないが、と、シグレは自嘲するように言う。

 

 

「その場に崩れ落ちた強盗が血の海に沈んでいく様子を、誰もが静かに見ていた…そして少し遅れて到着した警察により処理された」

「でもそれは、貴方が他の人を守ったっていうことじゃ…」

 

 

自分を嘲るように言葉を続けるシグレにアスナがフォローするように言う。

アスナの言うことも間違いではないだろう。

誰も何もしなければ、強盗以外の死者が出ていたかもしれない。

 

 

「…見方によってはそうなるだろう。だが結果として、俺の行動が強盗の死を招いたことも事実…俺が、殺したのだからな」

 

 

それがまた、シグレの人生を一つ、狂わせていく。

 

 

「木刀は当然のように警察に証拠品として押収され、俺を含めた何人かが警察に事情を聞かれた。俺以外は俺に悪意がなかったことを主張した事もあったらしく、俺は罪には問われなかった」

 

 

少年院ということもなかったな、とシグレは笑いながら言う。

その言い方は、シグレ以外の皆からすればあまりに痛々しい笑い方だったが。

 

 

「解放はされたが、木刀は証拠品として押収され……過程はどうあれ、俺は家族との繋がりを全て…失った」

 

 

シグレにとって唯一の繋がりとなっていた剣を失った事。

それは、シグレの心の拠り所となる全てを失ったことと、同じだった。

…少なくとも、シグレにとっては。


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