ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第62話:過去 - III

心の拠り所を失い。

 

 

「…そして、ゲーム開始の半年くらい前…か」

「えぇ…」

 

 

シグレの言葉をサーシャが引き継ぐ。

 

 

「…孤児院が閉鎖されることが決まったの」

「それって…」

 

 

サーシャの言葉にサチはまさか、と言った表情。

おそらく、シグレが原因、と思ったのかもしれない。

しかし。

 

 

「…理由はよくある…と言っていいのかわからないけれど、財政難。単純に運営が厳しくなってしまったの」

「……」

 

 

家族を失い、繋がりを失い、ついには住む場所すら失うこととなったシグレ。

けれど、守るための力がなかったシグレにはどうしようもなく。

 

 

「…それから俺は慣れないながらの一人暮らしを開始した。生活保護を受けながら、ではあるがな…ナーヴギアは、バイト先で知って、試しに抽選に応募したらたまたま当たったわけだが…まさかこうなるとは、な」

 

 

そして、今に至る、とシグレは軽く笑いながら続けた。

 

 

「…シグレ君。あの時は貴方を守ってあげられなくて…本当に、ごめんなさい」

「……先生。俺は別に恨んだりはしていないが」

「それでもよ。ずっと一言…謝りたいと思っていたの」

 

 

再度、ごめんなさい、と。

サーシャはシグレに頭を下げる。

その様子にシグレはやれやれ、と溜息を吐くだけだった。

 

 

「…あの時、先生とあの孤児院がなければ、俺はこうして、ここにはいなかった」

「でも…」

「俺が人を信じようとしなかったのは、俺個人の弱さのせいだ。先生に責任はない」

 

 

そこまで言うとサーシャは顔を上げ。

 

 

「…恨まれて、当然のことをしたのよ?」

「それでも、だ。当人が言っているのだから…素直に感謝の言葉くらい受け取ってもらいたい」

 

 

確認するように、許しを請うように尋ねるサーシャにシグレは表情一つ変えず言葉を続ける。

 

 

「……ありがとう、先生。俺は貴女のおかげで、今ここで生きている」

「う、ん…っ」

 

 

そこまでいうと、心の荷が下りたのか、サーシャは泣き出してしまう。

しかしシグレは何が起こったのか察することができずに。

 

 

「……これは俺が悪いのか?」

 

 

キリト達の方に向き直り確認する。

それに対し。

 

 

「そうだな。お前の責任だろ」

「む……」

 

 

ははは、と笑いながらのキリトに対し、納得がいかないといった様子のシグレ。

和やかな感じの二人に対し、アスナ、サチ、ストレアはどこか申し訳なさげに。

 

 

「…ごめんね、シグレ君。軽々しく聞いていい話じゃなかったね」

 

 

アスナが代弁するように言う。

 

 

「…聞かせるつもりがなければ最初から話していない」

「でも…」

 

 

シグレの言葉に何かを言い返そうとするかのように言葉を続けようとするサチ。

けれど、そんな彼女の言葉はシグレの溜息によって打ち消される。

 

 

「上の階層までわざわざ俺なんかを追いかけてくる物好きには話してもいいかと思った…それだけだ」

「ふーん?」

 

 

言葉を続けるシグレに、ニヤリという擬音が似合いそうな笑みを浮かべてじーっと見つめるストレア。

 

 

「それはつまり、アタシ達は信用してくれてる…ってことでいいのかな?」

 

 

シグレからすればその通りなのだが、今までが今までだけにいざ認識すると小恥ずかしさあるのか。

 

 

「………あぁ」

 

 

小さく、肯定の返事を返すシグレ。

今のシグレはそれだけで精一杯だった。

 

 

「そっかそっかー…ありがとね、シグレ」

 

 

からかうような口調から、やさしい口調に変えながらそっとシグレを抱きしめるストレア。

 

 

「…心から、っていうのは難しいかもしれないけど…アタシの事、信用してくれて…嬉しいよ」

 

 

ストレアの方から引き寄せるように抱きしめた為、胸元にシグレの頭が当たる形になるが、全く気にする様子もなく。

 

 

「大丈夫。アタシを救ってくれた貴方の事、アタシは絶対に裏切らない。何があっても…貴方の味方だからね。きっとアタシだけじゃなくて、アスナも、サチも、キリトも…みんな」

「やはり…物好きだな」

「…だって。言われちゃってるよ?」

「多分…ストレアも含まれてるよ?」

「えー」

「…というか、ずるいよストレアばっかり。私だって……」

「そこは早いもの勝ちー」

「……」

「…アスナ。妬いてるってことは何となく分かったけど…無言はちょっと怖いぞ」

 

 

暗い話の後で、和やかな雰囲気になり、その様子を見ていたサーシャは、シグレはきっともう大丈夫、と安心しながらそのやり取りを見守っていた。


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