ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
やがて、カウントが0になり、決闘が開始されるが。
「……」
「……」
二人は動かない。
しかし、二人は剣を構えており、隙が見えない。
互いに互いの隙を窺っていた。
その静寂のせいで、二人の髪を靡かせる風の音が大きく響くレベルだった。
キリトが1歩シグレに近づけば、同じ距離だけ離れるシグレ。
(くそ…間合いに入れない……)
少しばかり焦れてきたキリト。
キリトが間合いに入ろうとしても、シグレがそれに対応を続ける限り、この状況は打破されない。
けれど、それはシグレとて同じはず、と考えていた。
つまるところ、動かなければ、負けることもないだろうが勝てることもない。
(…踏み込むか?いや、でも……)
間合いを見誤って踏み込めば格好の的になるだけ。
キリトはそう思っていたからこそ、迂闊に踏み込めなかったのだ。
仮に見誤っていなかったとして、シグレが簡単にやられてくれるはずがない、という確信がキリトにはあった。
何故なら、ここまで半分以上の層でボスを単独撃破した実績があるから。
1対1の決闘で簡単にやられれてくれるはずもない。
「…どうした、来ないのか?」
シグレがキリトに声をかける。
もちろん、構えは解かない。
その言葉に、キリトは察した。
やはり、シグレは踏み込んでくるのを待っていたのだ、と。
それは即ち、踏み込まなければ互いに踏み込み切れず、互いに攻め入られることはないと。
「…シグレこそ」
だからこそ、キリトは構えこそ解かず、けれど肩の力を抜いて言葉を返す。
決闘開始から維持している間合い。
この間合いであれば、シグレは踏み込んでこない。
そう思ったからこそ、少しだけ気を緩めてしまった。
「来ないのなら…こちらから行くぞ」
一方でシグレはキリトの気の緩みを見逃さず、一気にキリトの懐まで距離を詰める。
そのスピードは、システムのアシストを利用したのだろうか、と一瞬驚くキリト。
驚きより先に、反射的に木刀でシグレの攻撃に備える。
しかし、防御に気を取られすぎ、距離を空けようとして仰け反ってしまう。
(…早い!)
シグレのスピードは、キリトのそんな反射的な対応を嘲笑うかのようにあっさりと懐に潜り。
「…気を抜きすぎたな」
まるでモンスターを相手にするかのような威圧感を伴いながらキリトに対し木刀を振るうシグレ。
しかし、キリトとてそう簡単にやられる事もなく。
「くっ…!」
バックステップでシグレの斬撃を交わし、着地の勢いをバネにして前進の力に変え、今度はキリトが一気に距離を詰める。
「おおぉぉぉっ!」
距離を詰め、間合いを捉え、構えている木刀をシグレの左肩の側から右半身に向けて袈裟の形に振り下ろす。
「…甘いな」
けれど、そんなキリトの渾身ともいえる斬撃を、シグレは体を軽く、シグレから左にずらす事で回避する。
キリトの木刀は惜しくも空を切り裂く。
しかし、キリトの勢いは止まらず、木刀に引っ張られるように前に進んでいく。
そのせいもあって、キリトは背中をシグレに晒してしまう。
「…これで、終わりだな」
木刀を両手で振り上げ、振り下ろす。
バシ、と木刀がキリトの頭を叩き、1のダメージを与えた。
その瞬間、システムのメッセージが表示され、シグレの勝利が通知された。