ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第3話:立ち止まる者、歩き出す者

皆が皆錯乱する中。

 

 

「…おい、大丈夫か」

 

 

先ほどの女性プレイヤーも両手で頭を抱え、その場で蹲っていた。

シグレが声をかけても、反応がない。

女性の前でしゃがみ、表情を窺うシグレ。

 

 

「…」

 

 

視線は地面を向いている。

おそらく、彼女は何も見ていない。

というより、見えていない。

 

 

「…」

 

 

この後、クリアを目指し町を出て先に進んでいくつもりのシグレ。

とはいえ、放っておけば自殺するかもという状態の女性を放り出すほど無責任にはなれなかったシグレは女性に手を貸し。

 

 

「…立てるか?」

 

 

肩を支え、なんとか彼女を立ち上がらせる。

シグレの問いに女性は答えない。

とりあえず、宿に送るかと考え、町の宿を目指すことにした。

 

 

 

宿までは広場からそこまで遠くなく、宿にたどり着いてからシグレはNPC相手に手続きを行う。

稼いだ金を使い、7泊分の金額を支払い、部屋のカギを受け取るシグレ。

 

 

「…大丈夫か」

「ん…ありがとう、ございます」

 

 

ぼんやりしている彼女にお礼を言われながら。

 

 

「…とりあえず7泊分だけ確保しておいた。この後どうするかは自分で決めろ」

「どうして…?」

 

 

立ち上がり、扉を開け外に出ようとした時に言葉を投げかけられ、歩みを止めるシグレ。

 

 

「どうして…ここまで、してくれたの……?」

「…放っていって、それが原因で自殺でもされたら寝覚めが悪いからな」

 

 

シグレの中では、彼女は放っておいたら自害するかもしれない。

それくらいに精神的に追い詰められているのでは、と懸念をしていた。

 

 

「…あいつは言った。終わらせたければクリアをしろと。ならばクリアをすればいいだけの事」

「無理よ、そんな……」

 

 

βテストの時のことを考えれば、戦闘不能を視野に入れなければ先に進むことも難しいかもしれない。

まして、一度HPが0になれば現実でも死ぬとなれば、さらに慎重になる。

 

 

「…確かに、難しいだろうな」

 

 

シグレは、だが、と続ける。

 

 

「ここで死のうが、現実に戻ってそこで死のうが、どちらも等しく死だ。ならば足掻いて死んだほうが後悔はない…少なくとも俺は、だが」

「……」

「それに…どうせ俺には帰りを待つ奴などいない。だから俺が死んでも悲しむ者はいない。だが…お前はよく考えるといい。帰りを待つものがいるのなら…な」

 

 

それだけ言い、シグレは部屋を後にする。

ここから先は、本人次第。

外に出て、扉が閉まる。

そこから先は、シグレは振り返らなかった。

 

 

「……7泊で70コル。最初の町は安くて助かるな」

 

 

こういうRPGの最初の町の宿から高くては困るが、さすがにゲームバランスは調整がされており、そう無理のない金額。

とはいえ、最初の町では稼ぎにくい部分もあるので、どうしたものか、とシグレは考えながら宿の出口へ向かう。

 

 

「…まぁ、少し歩いて考えるか」

 

 

割のいいクエストがあれば、それに越したことはないのだが、と考えるシグレ。

βテストの知識だけでは心当たりがない。

正式サービスで増えていればいいが、なければ外で狩りをすればいい。

そう考え、シグレは宿を後にして、夜の街へと踏み出した。


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