ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
悲鳴が聞こえた場所は裏路地を出てすぐだったため、状況を把握するのにそれほど時間はかからなかった。
「あれは…」
「っ…!」
シグレとアスナは二人、その状況に言葉を繋がなかった。
建物の屋上からロープで吊り下げられた、鎧を着こんだ兵士風のプレイヤー。
彼の胸元は一振りの剣で貫かれており、それを引き抜こうと抵抗しているようだった。
しかし、力が入らないのか、剣は動く様子がない。
近くに他のプレイヤーもいるが、その状況に呑まれているのか、動こうとする者はいない。
「…下で受け止めて!」
アスナが返事を待たずに建物内に入っていく。
おそらく上からロープを切り落とす算段なのだろう。
しかし。
「あ、あ、あぁぁ…っ!」
兵士の声が小さくなっていき、やがて、光の欠片となって霧散した。
「ちっ…!」
兵士が霧散し、支えを失った剣が地面に突き立つ。
ロープは兵士の首を絞めていたのか、輪の形で縛られていた。
「中には誰もいないわ!」
アスナが上から顔を出し、状況を伝えてくる。
シグレはその言葉を聞きながら兵士を貫いていた剣を引き抜き。
「……」
その刀身をじっと見る。
茨のような棘を持ったその剣は、夕暮れの赤に染まり、怪しく輝いていた。
次に辺りを見回す。
「………」
先ほどの状況を野次馬的に見に来たであろうプレイヤーが大勢いる。
そんな彼らは状況が掴めず、そんな中でプレイヤーが原因不明な状況で殺害されたという状況に動揺が隠しきれていない。
それが普通の反応。
であれば、そんな反応をしていないプレイヤーを探せばいいだけのことではあるが、そう上手くはいかなかった。
その状況では、何も変わらない。
そう考えたシグレは剣を手に、アスナの元に向かった。
建物の最上階。
杭に結びつけられたロープが外に伸びていて、アスナはそこから先を見ていた。
「…どう考える?」
「ここは圏内だから…普通に考えれば決闘で彼に剣を突き刺し、ロープに彼を括り付け、ここから突き落とした…っていうことになるんでしょうけど…」
圏内でHPが損傷するとすれば、決闘以外にはありえない。
それはシグレが第1層で、兵士に対し真剣で斬撃を与えてもHPが減らなかったことがある意味の証明といえる。
だとすればアスナの推測もありえるのだが。
「もしそうだとすれば…2つほど疑問がある」
「…言って」
シグレの言葉にアスナが先を促す。
その表情は真剣なものだった。
「…まず1つ。本当に殺すつもりなら、何故わざわざ圏内殺人という手を使ったか」
シグレが疑問を口にする。
「ただ殺すだけであれば、街の外であればいくらでもやりようがあった…それどころか、無駄に騒ぎになる可能性が少ない事を考えれば、そっちの方が普通だ」
「…殺されたあの人に強い恨みを抱いていた、っていうことは?」
アスナの推測にシグレは首を横に振る。
「ないな。もしそうなら逆に人目につかない場所を選ぶはずだ。こんなことをすれば、足がつく可能性が高くなる」
「…じゃあ、全く無関係な殺人犯による無差別殺人」
否定されたアスナは考えながら言うが。
「…それこそないか。それでこんな手の込んだことをするっていう方が不自然よね」
アスナは自分の考えを否定する。
その言葉にシグレも頷いた。