ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第70話:ほんの少しだけ、大胆に

「…それともう1つは、まさに今お前が言ったことだ、アスナ」

「え…?」

 

 

シグレが感じた2つ目の疑問。

 

 

「殺人がこの場で行われたのだとしたら、何故わざわざ余計な手をかけて人目に晒すようなことをした?」

「それは…」

 

 

シグレの疑問に対し、今度は推測の意見すら挙がらなかった。

つまりは、シグレの疑問に対する解答が出なかった事を意味する。

 

 

「……ここからは推測だが」

 

 

膠着状態を破ったのはシグレだった。

アスナは視線をシグレに向け、先の言葉を待つ。

 

 

「今回の圏内殺人……そもそも目的が逆だったのではないか?」

「逆って?」

「プレイヤーを殺す事が目的だったのではなく、騒ぎを起こす事自体が目的だったのでは、という事だ」

「…ありえないわ。たとえシグレ君の推測が正しいとしても、それで人一人を殺すなんて…」

 

 

アスナの言うことも尤もである。

それはシグレにも分かっていた。

いくら騒ぎを起こす為とはいえ、人の命を奪う。

それではあまりに騒ぎを起こすための犠牲が大きすぎる。

 

 

「…確かにその通りだ。だが同時に…そう考えれば辻褄が合うことも事実だ」

「……とりあえず、戻って誰かに話を聞きましょう」

 

 

ここで推測を話し続けても埒が明かない。

シグレとアスナの話は結局のところそのような形で落ち着く。

それでも、このままにはできない。

そんなアスナに従うように、二人は階下へと向かっていった。

 

 

 

外に出てみると、まだ人は掃けておらず、互いが互いを疑っている様子が見て取れる。

簡単に言えば、疑心暗鬼になっている、といったところか。

 

 

「…この中で、今回の事件…初めから見ていた者はいるか?」

 

 

シグレが呼びかける。

その呼びかけに、互いが辺りを見回し、確認をしあう。

だが、誰も最初からは見ていないのか、互いに視線を交わすだけで、すぐには名乗り出て来なかった。

しかし、少しして一人、紫髪の女性が歩み出てくる。

 

 

「ごめんね。怖い思いをしたばかりなのに…貴女、お名前は?」

「…あ、あの…私、ヨルコっていいます」

 

 

アスナの気遣うような問いに、ヨルコと名乗った女性が答える。

彼女の話では、今回の事件に関していえば、殺されたのはカインズ、というプレイヤーで、かつて同じギルドにいた仲間。

今回は食事に来ていたのだが、広場ではぐれて、探そうと辺りを見回していたら、教会である建物の窓から突然現れたらしい。

彼女によれば、犯人と思わしき人物は建物内に一瞬だけ見えた、との事だった。

ただ、あまりに一瞬だったのか、それとも表情が見えなかったのか、犯人が誰かまでは分からない。

更に付け加えれば、カインズに恨みを抱く人物に心当たりはない、との事であった。

 

 

「……」

 

 

情報を元に考えを纏めようと考えるシグレ。

少しして、顔を上げ。

 

 

「…今日ももう日が暮れる。続きは後にした方がいいのではないか?」

「そうね。ヨルコさん…大丈夫?」

「はい…」

 

 

シグレが提案すると、アスナもそう思ったのか、反論はしなかった。

とはいえ、ここで放り出すわけにもいかず、二人はヨルコを宿まで送り届けることにした。

 

 

 

そうして、ヨルコの案内で、彼女がとっている宿に着き。

 

 

「…わざわざすみません、こんな所まで送っていただいて」

「気にしないで。それより明日、またお話を聞かせてくださいね?」

「は、はい…」

 

 

アスナとそんな会話を交わし、彼女は部屋に戻っていった。

扉が閉まったところで、シグレとアスナは二人、街の中を歩き。

 

 

「…どうするか」

「まずは手持ちの情報を検証しましょう」

 

 

シグレの言葉にアスナが提案する。

彼女が言う手持ちの情報とは、カインズの体を貫いていた剣。

その出所が分かれば、犯人の手掛かりになると踏んだのだ。

 

 

「…それができるのは、確か…鑑定のスキルを持つ者だったな」

「そうね。君は……」

「…あると思うか?」

「いいえ…思ってないけど。念のためにね」

 

 

アスナの苦笑にシグレは一瞬眉を顰めるが、事実なのでそれ以上は言わない。

かくいうアスナも持ってはいないのだが。

 

 

「…リズベットでは駄目なのか?」

「うーん…今は多分一番忙しい時間だし、すぐには難しいかも…」

「そうか…」

 

 

ふと、今回こうして二人で出てきている理由が、リズベットの武具店に行くから、だった気がしたシグレ。

とはいえ、今更それを持ち出すのも野暮だろうと思い、それ以上は言わなかった。

 

 

「…エギルさんなら、どうかな…雑貨屋さん、だったし」

「?」

 

 

アスナが思い出したように言うが、シグレには言っている事に理解が及ばなかった。

ただ、その物言いから、おそらく心当たりがあるのだろうと結論を待つシグレ。

やがて、いつの間にか前を歩いていたアスナが振り返り。

 

 

「50層に行きましょう。キリト君の知り合いの雑貨屋さんなら、頼めるかもしれないわ」

「お、おい…」

 

 

シグレの手を引き、歩き出すアスナ。

突然の事にバランスを崩しかけるが、すぐに立て直し、ペースを合わせて歩く。

ただ引っ張られ、背を追う形になったシグレからは見えなかったが、アスナの顔は恥ずかしさからか赤くなっていた。


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