ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その後、エギルの店を出て。
「…とりあえず、戻るか。今からではもうどうにもなるまい」
「そうね。グリムロックという名前について聞くにしても、こんな時間じゃあ…ね」
シグレの言葉にアスナも同意する。
無理に調べるにも、当事者を無視して進めるのは違う、というのもある。
「ねぇ…シグレ君。今回のこと…皆に話して協力してもらうっていうのは…」
「圏内事件についてはそれでもいいだろうが…」
アスナの提案にシグレが煮え切らない答えを返す。
それはつまり、情報屋が言っていた事については、少なくとも協力を頼むつもりはないという事。
だが、皆に話せば協力を申し出てくれるだろうという確信もあった。
つまりそれは、その件については話さないことにする、という事で。
「…一番の理由は情報の漏洩だ。スキル如何では部屋の外からでも話し声を聞くことは可能だからな…最悪の場合、情報が無駄になる可能性がある」
言いながら、シグレの視線が少し厳しくなるのをアスナは見やる。
どうしてそこまで、というのを聞きたいと考えていたアスナだが、同時に、きっと答えてくれないだろうと考えていた。
「そっか…それなら、私は協力するわ」
「…いや、お前もこの件には…」
協力しなくていいと言おうとしたシグレだが、アスナに睨み返され、言葉を止める。
これは何を言っても無駄だろうと察したのだ。
シグレは溜息を一つ。
「…分かった。だが実際に協力できる事はそう多くないと思うが」
加えて、忠告を一つ。
それを言っても、アスナが引き下がらなかった事は言うまでもないが。
そうして、22層に戻り、シグレとアスナは事情を説明する。
無論、圏内事件のことのみ。
「…圏内でHPが0。しかも決闘かどうかも疑わしい状況…か」
キリトが考えるように言う。
根が臆病な性格のサチは怖がる様子を隠さない。
「ちょっと待って、ありえないよそんなの。システム的に絶対にありえない」
一方で、それを疑うようにストレアが意見を述べる。
その意見は、AIという立場特有の意見といえる。
「…ストレア。システムにアクセスして、グリムロックについて調べることって…出来ない?」
サチが思いついたように尋ねるが、ストレアが首を横に振り。
「…無理かな。以前ならできたかもだけど、今のアタシはカーディナルの管理者権限アクセスができないんだ」
ストレアがサチの意見を棄却する。
「カーディナルからの管理対象である代わりに管理者権限アクセスが出来るっていう繋がりだったんだけど、その繋がりを遮断しちゃったから」
「…あの時か」
「そ。シグレがアタシを傷物にした時」
シグレが思い出すように言えば、ストレアがニヤリと笑みを浮かべる。
「ちゃんとアタシの事、大事にしてね?」
「……話題が逸れる」
ストレアの言葉に、シグレはため息。
これは当分この話題でからかわれ、諦めや悟りといったものを思い知るシグレだった。
「…と、とりあえず、だ。ストレアはAIというより、一人のNPCプレイヤーとして考えたほうがよさそうだな」
「うん、そんな感じでよろしくー」
キリトの言葉に、ストレアが笑顔で返す。
自分の存在を否定されているようなものなのに、それでも笑顔でいられるのは、いろいろと吹っ切った、ということなのだろうか。
そんな会話をしていると。
「皆さん、揃ってたんですね。良かった」
孤児院の主であるサーシャがノックをして入ってくる。
「先生か」
「…別に名前で呼んでいただいても大丈夫ですが……キリトさん。ユイちゃんが目を覚ましましたよ」
「本当ですか!?」
サーシャの言葉にキリトが立ち上がり、部屋を早足で出て行く。
さすがに室内ということもあり気を遣っていたのだろう、走らないあたりは流石というべきだったが。
「…まるで、本当の父親だな、あれは」
「うん…ちょっと、微笑ましい」
シグレの言葉にサチも同意する。
「アタシ達も行ってみよ?」
ストレアの言葉に、皆もキリトを追うように、ユイが休んでいた部屋に向かった。