ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
部屋に向かうと、ユイは目を覚まし、上体を起こして辺りを見回していた。
「ユイ…よかった」
キリトが安心したように息を吐く。
ユイも目覚めたばかりなのか、ぼんやりした感じでキリトを見やっていた。
「…パパ」
「ん?」
「私……全部、思い出したよ」
ユイの言葉に、キリトだけでなく、その場にいた皆が驚く。
「ユイ…私のこと、分かる…?」
「…分かるよ、ストレア」
「うん…!」
ストレアが恐る恐る尋ねると、ユイは当然、といわんばかりに返す。
その言葉に、ストレアは嬉しそうに返事をする。
そのまま、ユイは説明を続ける。
ユイもストレアと同じ、メンタルヘルス・カウンセリングプログラムであるという事。
その目的は、精神状態が不安定なプレイヤーに接触、カウンセリングを行い、精神状態を安定させる事。
正式サービスの初日に、基幹システムであるカーディナルにより、プレイヤーへの干渉を禁止されたという事。
それにより、プログラムされた内容が実行できず、プログラムとしてのエラーを蓄積させた事。
そのエラーにより、今回の記憶喪失のような症状が現れた事。
プレイヤーに干渉はできず、モニタリングをする中で、恐怖、絶望という負の感情ばかりの中、喜び、希望といった正の感情を持つプレイヤーがいたという事。
そのプレイヤー…キリトに接触するために、フィールドを彷徨い続けた事。
「…そういう意味では、ユイは茅場の思惑の被害者ということになるのか」
シグレが壁に背を預け、腕組みをしたまま呟く。
実際の所は不明だが、少なくとも一因になっていることは間違いないかもしれない。
何故ならソードアート・オンラインの開発者であるということは、その基幹であるカーディナルも茅場が開発したということだから。
「ねぇシグレ…アタシの時みたいに、カーディナルから切り離すことは…出来ないの?」
「……」
ストレアの言葉に、シグレは言葉を止める。
「ストレア…切り離す、って…?」
「…アタシ、一度カーディナルの命令違反をして、プログラムチェックにかかったんだ」
ユイの言葉に、ストレアは思い出すように答える。
ユイは驚くが、構わずストレアは続ける。
「そのままだと、プログラムの消去、あるいは初期化…そうなる前に、シグレが止めてくれたんだ」
「…だがその代わりにこいつはメンタルヘルス・カウンセリングプログラムとしての役割、特権も失った。システムに依存しない孤立したAIとなった、ということらしい」
それがストレアのいう、傷物にされた、ということだった。
とはいえ、結果としてストレアは救われたわけであるが、シグレはそれを否定する。
「…いずれにせよ、ストレアの件で上手くいったのは単なる偶然だ。今回も同じになるとは限らない」
壁に背を預けたまま、シグレは目を閉じる。
ストレアの件は、シグレにとっては偶然に過ぎない。
つまり同じことをしても、ユイのプログラムを破壊してしまうかもしれない。
「……ちょっと待って、ひょっとして下手したらアタシあの時…」
少し顔を引きつらせるストレアに、極めて冷静に。
「…運がよかったな。下手をすれば消滅していただろう」
「……うん、消滅してたらアタシ、シグレの事恨んでたかも」
シグレがいうと、ストレアは半目でシグレを睨みながら言う。
結果として助かったからよかったものの、といったところだろう。
その嫌味を受け流しながら。
「……それに、ユイを救うのは、俺の役目ではあるまい」
言いながら、視線をキリトに向ける。
「あぁ…ユイは、俺が守るよ」
「パパ…」
キリトもその意図を読み取ったのか、それとも元々そのつもりだったのか。
その様子を見ていると、キリトとユイは本当の親子といって遜色のない絆のような物が見えた。