ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その翌日。
「…行くか」
「えぇ…グリムロック、っていう名前について…話を聞かないと」
シグレとアスナが言葉を交わす。
昨日の続き、という事である。
ユイの件でいろいろあったが、こちらも無視できるものではない。
「…そっちはどうする」
「俺は…そうだな。74層のボスについて情報を集めてみるよ。あんまり多人数で行っても、っていう気もするしな」
「そうか」
キリトの言葉にシグレは頷く。
圏内事件の解決も重要だが、攻略を疎かにするわけにもいかない。
役割分担としては、妥当な線といえる。
「ならこっちは…俺とアスナで十分だ。そっちは情報収集で人数が必要だろう」
シグレ達は人海戦術が必要なことではない。
それはむしろ情報収集を行うキリト達の方が必要といえるからこそだった。
「なら…ストレアはシグレさん達の方に行って」
「…わかった」
しかし、ユイはそれを却下し、ストレアにシグレ達への同伴を依頼する。
ストレアもユイの言葉に何かを感じたのか同意する。
何か通じるものがあったのだろうか。
それは本人たちのみぞ知る、といったところであろう。
そうして、昨日と同じ食堂。
ストレアを加えた一行は、再度ヨルコと会い、話を聞くこととなった。
どう話を切り出すべきか、悩んでいたところ。
「…いきなりですまないが、グリムロック、という名に聞き覚えはあるか?」
「っ!」
シグレが静寂を打ち破り、ヨルコに尋ねる。
昨日のエギルの鑑定により得た手掛かり。
「どこで、その名前を…」
「…昨日、カインズさんの胸に刺さっていた武器を鑑定したら、作成者がグリムロックさんだったの」
アスナが手掛かりについて説明をするとヨルコは一瞬躊躇するも、すぐに心当たりを認める。
そして、意を決したように話し始める。
「…昨日は、お話できなくてすみませんでした。忘れたい、あまり思い出したくない…話だったから」
でも、お話しします、と、ヨルコは続ける。
「…そのせいで、私達のギルドは…消滅したんです」
そう呟くのとほぼ同時に、灰色に染まった空から降る雨が窓を叩き始めた。
―ギルド『黄金林檎』。
ある時、レアモンスターのドロップで非常に貴重な装備品を入手した事。
その扱いをギルドで相談したところ、ギルドで利用する意見と、売って儲けを分配する意見で割れた事。
結果として、装備品である指輪は売ると決まった事。
指輪の売却にリーダーであるグリセルダ、という女性が向かった事。
……そして、その後彼女は戻らず、後に死亡した事が分かった、という事。
「…競売にかけられるほどの装備を持って、圏外という事もあるまい。とすれば、何らかの方法で以て圏内で殺されたか」
「時期を考えると、睡眠PKの可能性は低いかもしれないわ」
手段については、現在の手持ちの情報では検討は難しいと考え、別の視点を考えることにする。
「グリセルダという人物を殺した犯人…ギルドのリーダーとはいえ、それだけでは殺される理由にはあまりに弱いと思うが」
少なくとも俺はだが、という注釈をつけてシグレは意見を述べる。
「…他に狙われる理由があった?」
「そうだな。例えば…」
ストレアの疑問にシグレは頷いた。
言葉を続けようとしたシグレだが、続けたのは。
「指輪の事を知っていた…ヨルコさんのギルドのメンバーの誰か…?」
「あぁ」
アスナだった。
彼女の言葉に、シグレは頷く。
「ちなみにその、売却に反対していた人って?」
「三人いて、そのうち二人は、私と…昨日殺されたカインズです。もう一人は…シュミットという名のタンクです」
攻略組の『青龍連合』にいる、と聞いた、とヨルコは続ける。
とはいえ、攻略をほぼ孤軍奮闘したシグレと、そんな彼と組んでいたストレアは知る由もなく。
「…いたわね。確かディフェンダー隊のリーダー…だったかしら」
「シュミットを知っているんですか!?」
アスナが思い出すように言うと、ヨルコが食いつくように身を乗り出してアスナに問いかかる。
「えぇ…とはいっても、攻略会議で顔を見たことがある、っていう程度よ」
「あの、シュミットに連絡を取ってもらうことはできないでしょうか…ひょっとしたら彼、今回のことを知らないかも」
ヨルコの言葉にアスナは頷く。
もし売却反対した人物が狙われているとしたら、今は別のギルドにいるとはいえ、無関係ではない。
「…分かったわ。攻略組で仲がいい人もいるから、そこから連絡が取れないかあたってみる」
アスナに連絡を取ってもらい、ヨルコには部屋から出ないよう伝えた後、一度解散することとなった。