ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
** Side Asuna **
彼が出て行ってから、どの位経っただろう。
少なくとも、数時間は経っている。
何故なら、外はもう暗くなっているから。
チュートリアルの時は、夕暮れだった。
宿の中の家具が月明かりに照らされ、静かに照らされている。
「っ…」
電気を点けてすらいないが、ずっと蹲っていたせいで気づかなかった。
けれど、不思議と、明かりをつけようという気は起きなかった。
考えれば考えるほどやりきれない思いが募る。
現実ではないこの世界から、戻れなくなって、このままここにずっといたらどうなってしまうのか。
考えたくもない。
「…」
本当なら、今頃私は家族で食事を摂っていたのだろう。
あるいは食事が終わっているだろうか。
ところが今は、仮想世界の、暗い宿の中で一人。
予想もしていなかった、望まぬ現実を押し付けられたという、一種の絶望。
その絶望に押し潰されそうであるという自覚はあるが、どうすれば彼のように立ち上がれるのか。
「……」
ふと、彼が言った事を思い出す。
どうせここで死ぬのなら、足掻いて死ぬことを選ぶ、と。
彼はきっと、ゲームクリアに向かって走り出したのだろう。
そしてそれを目指すのは、彼一人ではない。
そんな人たちに比べて、今の私はこんなにも弱い。
けれど。
「…こんな風にしてる場合じゃ、ない」
帰りを待つ者がいるなら、考えろ、とも彼は言った。
家族、友達、私が大切に思う人達。
そんな人達のところに帰るために。
私の現実を取り戻すために。
「…よし」
立ち上がり、細剣を手に取り、部屋を出る。
辺りは暗かったが、関係ない。
彼は、強かった。
戦いの技術もだが、何より心の強さも。
だからこそ、彼は前に進めているのだと思う。
けれど、負けていられない。
負けているようでは、絶対に帰れないから。
だからこそまずは、自分が戦えるようにならなきゃいけない。
守られるのではなく、守れるくらいに。
あの時私を助けてくれた、彼のように。
「…待ってなさい。必ず追いついて見せるから」
そして、追いついたら言ってやろう。
彼の強さは、私から見て相当の物だった。
剣の強さも、心の強さも。
…けれど、少なくとも一つだけ、彼は間違っている。
「…貴方が死んで悲しむ人は、いるのよ」
貴方が死んで悲しむ者は、少なくともここにいると伝えるために。
そして何より。
「…名乗ってなかったから」
強くなって、彼に追いついたら名乗ってやるんだ、と。
そう思いながら歩きだす。
さっきより、気分は晴れていた。
** Side Asuna End **