ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
転移結晶か、転移門を使ってきたのかは分からないが、合流するまでそんなに時間はかからず、日が暮れる少し前には合流して、一同がヨルコが止まっていた宿の部屋に到着した。
ヨルコとシュミットがテーブルを挟んで座り、シグレとストレアは壁際に。
アスナはシュミットが逃げ出さないようにか、はたまた危険人物が乗り込んでくることを懸念してか、ドアの近くで腕を組んだまま立っていた。
「……」
事情を既に聞いていたのか、落ち着かない様子のシュミット。
宿に配置されたイスに座り、ひたすら貧乏ゆすりを続ける。
「…グリムロックの武器で、カインズが殺されたのは…本当なのか」
「………本当よ」
シュミットの問いに、ヨルコは小さく頷く。
間を置いての答えは、認めたくない、といった心情があるのかもしれない。
それでもどこか落ち着いたヨルコに、シュミットは動揺を隠さず。
「あの指輪を奪ったのはあいつだったのか!?グリセルダを殺したのもあいつで…グリムロックはあの時売却に反対した三人全員を殺す気なのか!?」
「……グリムロックさんにあの武器を作ってもらった、別のメンバーの仕業かもしれないし」
問いかけるように言うが、誰も答えることはできないとわかっているのか、誰に言うでもなく頭を抱える。
そんな彼に静かに可能性で答えるヨルコ。
「でも…圏内で人を殺すなんて、幽霊でもなければ無理だわ」
言いながら、ヨルコはゆらりと立ち上がり。
「昨夜……寝られなくて、ずっと考えてた。そうしたら…こう思った」
言った瞬間、まるで、それこそ別人格の幽霊が乗り移ったかのように立ち上がり、声を荒げる。
「っ結局のところ、グリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!こんなことなら…こんなことなら、投票なんかしないで、グリセルダさんに任せれば良かったんだわ!!」
その豹変ぶりに、シュミットだけでなく、シグレ、アスナ、ストレアの三人も一瞬息を呑む。
だが言いたいことを言って落ち着いたか、その豹変はほんの一瞬で。
「…あの時ただ一人、グリムロックさんだけは…グリセルダさんに任せると言った。だから…あの人には、私たちに復讐する権利があるんだわ」
また、少し落ち着いた様子で言葉を続ける。
それは、狙われていることに対する恐怖か。
「……冗談じゃない…冗談じゃないぞ。半年も経ってから、何を今更…!」
ヨルコの言葉に、シュミットは両手で頭を抱えてしまう。
傍観する立場のシグレは、壁に背を預けて腕を組み、様子をただ見守る。
「……」
シグレはただ、何かがおかしい、と考えていた。
それは、ヨルコの振る舞い。
一見すれば普通だろう。
だが、いつどこで殺されるかわからない。
安全と思われていた圏内で起こった殺人により、圏内ですら危険な領域になる。
その状況で、怯えることもなく、淡々と話すヨルコの振る舞い。
それこそが、シグレが感じた懸念。
それは皮肉にも、この世界に来ていたからこそ感じられた懸念だった。
人は死を直観する直前は平静ではいられない。
シグレはそれを、第一層で武装した兵士と対峙した時に知った。
どれだけ上から目線で威圧しようと、目の前の恐怖に怯えれば途端に平静を失い、ただ逃げ出す事しか出来なくなる。
…尤も、精神的に鍛えられた武人であれば、そうはならないのかもしれないし、ヨルコがそれほどの精神力を持っているのかもしれない。
けれどシグレは、殺されることを是とする物言いのヨルコがそういった意味で落ち着いてるとは思っていなかった。
「どうしたの、シグレ?」
「…いや」
隣にいたストレアに尋ねられるが、シグレは答えない。
「…っお前はそれでいいのかヨルコ。こんな訳の分からない方法で殺されて本当にいいのか!?」
ついに耐え切れず、シュミットがヨルコと目線を合わせるためか、ただ感情に任せてか立ち上がる。
必死に問いかけるシュミットに、ヨルコが口を開こうとした瞬間。
「っ……」
ふらり、とヨルコの体が揺れる。
そのまま振り返り彼女はこちらに背を向けた。
…その背には、小さなナイフが刺さっていた。
…誰かが動き出す前にヨルコは崩れ落ちるように窓から外に放り出され、光の粒となり、刺さっていたナイフが地面に転がった。