ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
「ちっ…」
ヨルコが落ちた窓の方に寄り、シグレは外を見まわす。
すると、少し離れた所の屋根の上に一人、覆面を付けた人物がこちらを向いていた。
しかし、シグレの視線を察知したか、さっと振り返り、逃げるように屋根の上を駆け出す。
「逃がすかっ」
シグレはそれを追うように、窓から飛び出す。
「駄目よ!」
アスナが声で制止するが時既に遅し。
シグレは攻略で身につけた立ち回りを駆使し、屋根を飛び移っていた。
一方でシグレからすれば情報屋から仕入れた情報と合わせて考えていた。
シュミットやヨルコのいうギルドメンバーである可能性。
それと同時に、鼠から仕入れた情報による、下っ端の可能性。
この覆面を追い詰めれば何か分かるかもしれないと考えていたのだが。
「ちっ…!」
覆面男は転移結晶を取り出す。
転移のつもりだろうと察したが、そうなればもうどうにもならないことは分かっていた。
そうしてシグレが立ち止まると同時に、町の鐘が鳴り、覆面の人物は光となって、その場から消えた。
「……っ」
ようやく見つけた手掛かり。
それを見逃した悔しさからかシグレはその手を握りしめ、けれどそれ以上はどうにもならないと考え、屋根から降り、宿へと戻るのだった。
宿に戻ると。
「っ馬鹿!無茶しないでよ!」
扉を開けた瞬間、アスナに剣を突き付けられるシグレ。
アスナ自身、圏内だからこうしているのだろうが。
「……圏内殺人が解決していない以上、それは危険行為だと思うが?」
「分かってるわよ…でも、このくらいしないと、貴方、無茶するじゃない」
シグレが言うと、アスナは剣を鞘に納める。
雰囲気が落ち着いたところで、部屋を見渡す。
そこにはアスナとストレアがいるのみ。
「…シュミットはどうした?」
「彼ならさっき出て行ったわ。ギルドに戻るんじゃないかしら」
「……まぁそれなら、人の目がある分いくらか安心か」
そうなると、今日はここまでか、と考える。
同時に、面倒なことになった、とも考え、シグレは一つ溜息。
「…ところで、シグレが追いかけた人は?」
「転移結晶でどこかに行った、ということくらいだな。どこに転移したかまでは不明だ」
「手がかり、なし…か」
ストレアの疑問に対し、シグレが首を横に振りながら答える。
とはいえ。
「……妙だとは思わないか?」
シグレは思うところがあるのか、顎に手を当てて話を始める。
「普通、真相が分からない殺人で狙われていると知れば、動揺をするのが当然だ」
シュミットのように、と続ける。
「もちろん個人差はあるだろう。だが……ヨルコの方は落ち着きすぎだ。それに…この状況で、窓を開けたままにしていて、それを気にする様子もなく話していた」
「昨日の今日、だもんねぇ…」
シグレの言葉にストレアがそういえば、という感じで答える。
「あれではむしろ殺してくれと言っているような……」
シグレが言いながら、途中で言葉を止め、考え出す。
その様子にアスナが不思議そうにシグレを見るが。
「…シグレ君?」
アスナが声をかけても、シグレは聞こえないレベルで独り言を呟く。
アスナとストレアは二人、シグレの様子を気にしつつ歩くが、当の本人は気づかないのか、ただ前を歩き続ける。
「……アスナ。確かヨルコとはフレンドの登録があったな」
「え、えぇ…念のため、だけど……っ」
シグレの突然の問いに、アスナはフレンドの一覧を表示させ、確認する。
すると、アスナは息を呑んだ。
死んだはずの彼女の現在地が表示可能であった事に。
「現在地はどうなっている」
「…19層の丘の上、ってなってるわ。でもどうしてこんな所に」
アスナの答えに、シグレは一つ舌打ちをする。
すると、幸運にも転移門の近くにいたシグレはすぐに転移門に近づく。
「ど、どうしたのシグレ!?」
「…急ぐぞ。この事件…まだ、終わっていない可能性がある」
ストレアが慌てて尋ねるが、シグレは全てを答えずに駆け出す。
まるで、話している暇がない、と言わんばかりだった。