ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第80話:システムに抗う意思

そうして、一行を見送った後、シグレ達は22層の家に戻り、74層について調べていたであろうキリト達と合流する。

そんな中で。

 

 

「…っていう事があってね。酷いと思わない!?」

「あ、あぁうん…私も、その場にいたらそうなってたかもしれないけど…」

 

 

ストレアの言葉に頷きながらどこか疲れた様子のサチ。

というのも無理はなく、この話ももう数回はしている。

具体的な回数は、キリトが片手で数えられるまでは数えていたが、それ以上は数えるのを止めていた。

 

 

「…とりあえず、74層の攻略に関しては何か分かったのか?」

 

 

シグレの問いに、キリトは放っておいていいのだろうか、と少し疑問に思ったが。

 

 

「…あぁ。街で話を聞いてたら、軍が攻略の動きを見せているらしい」

「それは、例の血盟騎士団か?」

「いや…違ったな。アインクラッド解放軍…とかいってたな」

 

 

その名前にはシグレは聞き覚えはなかったが。

 

 

「まぁ…敵対するわけでもないし、大した問題でもあるまい」

「シグレは…ボスを見たことはあるんだよな?」

「あぁ」

 

 

今度はシグレが話し始める。

 

 

「…大振りな剣を持った…あれは何だ。牛か?」

「いや、聞かれても…」

「とにかくパワータイプといえるかもしれん。ただ気になったのは…そいつと対峙した時、ストレアに妙に止められたことくらいか」

「…止められた?」

「あぁ…下手に戦えば死ぬ、と。何度もな」

 

 

その事もあって、その場は撤退した、とアスナの確認にこたえるシグレ。

 

 

「…その事については、私から説明します」

「ユイ?」

 

 

突然名乗りを上げたユイにキリトが疑問を投げかける。

 

 

「…カーディナルは、このSAO全体を管理するプログラムです。その管理というのはフィールドのモンスターや、アイテムのドロップ率など広範囲に渡ります」

「確か、ユイとストレアは、カーディナルにコントロールされるAIなんだよな」

 

 

キリトの言葉にユイははい、と頷く。

尤も、ストレアは完全な管理下ではなくなっているのだろうが。

 

 

「カーディナルの管理範囲にはゲームバランスの調整も含まれます。バランスの調整というと…どんなことが含まれると思いますか?」

 

 

ユイの問いに、キリト、アスナ、シグレの三人は少し考える。

やがて、それに対し答えを返したのは。

 

 

「…アイテムのドロップ率とか、モンスターのステータス調整とかか?」

 

 

キリトだった。

βテストの時点から熱中していた彼であれば、そういう事に強いのだろう。

 

 

「…パパの言う通りですが、調整対象はアインクラッド全体です。その対象には…プレイヤーの皆さんも含まれます」

「そう。そしてシグレは…やりすぎたんだ」

 

 

ユイの言葉を、ストレアが引き継ぐ。

先ほどまで愚痴を零していた彼女とは思えない程の、真剣な視線。

それに気づいてか気づかずか、ストレアは続ける。

 

 

「ボスの単独撃破を何十層も行う…普通じゃ無理なことなんだよ。そういう風に設定されていたんだから」

 

 

ストレアの言うことも当然であろう。

勝手は違えど、多人数で協力して進めることが前提であるMMORPG。

所謂ソロプレイという方法もあるが、それでは限界があるように設計されるのも当然であるが。

 

 

「…そうね。それにそんな事、このデスゲームでやろうとすること自体、普通じゃ考えないし」

「だから私達も心配して、こうして追いかけてきているわけだし」

 

 

ストレアの言葉にアスナとサチも同意する。

シグレはそこまで言うか、と内心思っていたが、言えば言い返されるだけと考え、ただ黙る。

 

 

「そう、シグレさんは…ボスの単独撃破を繰り返していました。そして…シグレさんはカーディナルからの調整対象に、指定されました」

「……具体的には?」

 

 

ユイの言葉にシグレが尋ね返す。

それに対し、答えたのはユイではなく。

 

 

「一番単純で、多分一番効果的な方法。シグレを…この世界から退場させること」

「それって…!」

「…多分、サチが考えてる通りじゃないかな」

 

 

世界からの退場、それは言い換えればシグレを抹消する。

そうなれば当然、現実では。

 

 

「…そんな馬鹿な!ゲームバランスの為だけに人を殺すつもりなのか、カーディナルは!」

 

 

キリトが激昂し、机に両の手を叩きつけて立ち上がる。

その瞬間に机が破壊不能であることを示すメッセージが出るが、それを意に介すことはなかった。

 

 

「…落ち着け、キリト」

「でも…いいのかよ、お前…!」

「…良い悪い以前に、誰にその感情を叩きつけているか…理解しているか?」

 

 

当事者であるシグレに言われ、キリトはハッとする。

カーディナルと話をしているわけではない。

つまり、キリトはユイに対し声を荒げていたようなもので。

 

 

「っ…ごめんユイ、熱くなりすぎた」

「いえ…大丈夫です、パパ」

 

 

静かに座りながら謝るキリトに、ユイも悲しそうに笑みを浮かべながら答える。

ユイ自身も、こうなった事は本意ではないのだろう。

 

 

「…それで、カーディナルはどう調整をかけるつもりなんだ?」

「詳しいことは…何も。ただ…74層のボスエリアで調整がスケジュールされています。つまり…」

「74層ボス攻略で…何かが起こる」

「…はい」

 

 

そこまでの話を受けて。

 

 

「…シグレ」

「何だ?」

 

 

キリトがシグレに声をかける。

 

 

「…俺は正直、今回のボス攻略にはシグレは参加しないべきだと思う」

「……」

 

 

キリトの言葉に反論する者はいなかった。

シグレを除く皆がキリトの意見に言い返さなかったことを考えると、皆がキリトの意見に賛成である、という事も考えられる。

しかし。

 

 

「…仮に、今回参加しなかったとして、だ。カーディナルはそれで収まるか?」

「……」

 

 

シグレの言葉に、ユイもストレアも答えない。

 

 

「…いえ。おそらくカーディナルは別の手段で対応をしてくると思います」

「……であれば、ここで参加しようがしまいが、さしたる変化はないということだろう」

 

 

であれば、とシグレは続ける。

 

 

「どういう手段で来るかは分からないが、参加しない…という選択肢を考える必要もない」

「やれやれ…なら、俺達はボスの討伐をしつつ、シグレを守る…ってところか?」

「…ボスの討伐が優先だろう」

「いざとなったら、撤退も考えるわ」

「……大丈夫、シグレは…私達が守るから」

 

 

皆が皆、理不尽からシグレを守ると告げる。

シグレからすれば、そこには確かな『強さ』が見えていた。

それと同時に、自分の弱さに情けなくなりつつあるシグレだった。


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