ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
そんな感じで、皆でボス討伐に行く空気になっていたのだが。
「…なんでよ」
それに反対する声が上がる。
その声の主は、ストレアだった。
「なんで…死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「…ストレア」
ストレアがシグレに縋るように身を寄せる。
その表情は不安に揺れていた。
「っ…今回だけでいいから、行かないで。止まってよ…アタシも…一緒にいるから…ね?お願いだから…」
ここまで反対するというのは、カーディナルを知っているが故、なのだろうか。
ストレアが必死に、シグレに考え直すよう懇願する。
けれど、シグレは溜息を一つ吐き。
「…ストレア」
言いながら、ストレアの頭に手を乗せる。
一瞬肩を震わせるが、抵抗する様子もなく、むしろさらに身を寄せてくる。
「やだよ…アタシ、アナタには死んでほしくない…!」
モンスターとの戦いで死ぬわけではない、システム的な追放。
何が起こるか、少なくともその場にいる誰にも分からなかった。
…ユイやストレアにさえも。
「……そうだな。俺も所詮プレイヤーだ、カーディナルからすれば消すくらいは余裕なのだろう」
シグレはストレアの髪を梳くように撫でながら、言葉を続ける。
「…だが、自分が死ぬかもしれない、なんて些細な理由で止まるつもりはない」
「些細って…」
目の前の温もりを、ただ感じながら、ストレアは考える。
彼を失いたくない。だから、止める。
そうしなければ、きっと、二度と触れることができなくなると、考えたから。
けれど、彼は止まらない。
なら、自分は今までどうしてきたか、とストレアは思い直す。
思い直して、すぐに結論が出る。
「……分かったよ。仕方ないなぁシグレは」
ほぼ強引に同行した。
今回だって、同じにすればいい。
だから。
「うん。アタシは…絶対にシグレを守るよ。カーディナルなんて知らない…アタシが、絶対に守るから」
「…そうか」
少しだけ頬を涙で濡らしたストレアの表情は真剣なものだった。
その真剣な表情に、ただシグレは頷くだけ。
「なら…期待しておくか」
「ん…」
やれやれ、といった感じで頭を撫でるシグレと、それを気持ちよさそうに受け入れ、身を寄せるストレア。
その様子に。
「…なんか、最近シグレとストレアの距離…すごく近く感じるんだけど、気のせいか?」
キリトが疑問半分、からかい半分に尋ねる。
それに答えたのはシグレではなく。
「うん…アタシ、シグレの事…好きみたいだから」
抱きついたままのストレアだった。
表情は窺えないが、なんとなく恥ずかしさを感じているのだろう、少しだけ言葉が途切れ途切れだった。
「…いいなぁ」
羨ましそうに呟くサチに。
「あの時のは失敗だったかしら…」
ストレアに対し、この感情を教えた事を少しだけ後悔するアスナ。
そんな二人に気づいてか気づかずか。
「んーっ…」
ぐりぐりとシグレに顔を押し付けるストレア。
「ふふっ…」
その様子を、姉にあたるユイは微笑ましげに見守っていた。