ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その様子を傍観する事を強いられたキリト達はというと。
「シグレ!」
キリトが呼びかけるが反応がなかった。
こちらの声が届いていないのだろうか、とキリトは考える。
片腕を吹き飛ばされ、それでも戦う意思を失わないシグレに何もできない自分を歯痒く感じていた。
そんな中。
「はああぁぁぁぁぁっ!!」
持っている大剣で、何度もシールドに攻撃をかけるストレア。
当然ながら、攻撃は通じず、破壊不能であることを示すメッセージが出るのみだが。
「開け、このおおぉぉぉっ!!!」
再度、斬撃。
けれど結果は無情にも変わらない。
「落ち着いて、ストレア!」
「放してよサチ、このままじゃシグレが!」
サチがストレアを背中から抱きしめるように押さえる。
ストレアはそれでも攻撃をやめようとしない。
皆、ストレアが必死になる理由は分かっていた。
このままでは、防戦一方のシグレは競り負けてしまうことが目に見えていたから。
そうなれば、最悪の結末が待っていることはいうまでもなく。
「放してよ…!」
それでも、自分がやることに意味がないことは悟っていたか、ストレアは大剣をその場に落とし、崩れ落ちる。
抱きしめていたサチが図らずも彼女を支える形になる。
「う、ぅ…シグレ…!シグレぇ…!」
ストレア自身は冗談交じりで、傷物にされた、とよく言っていたが、実際の所はシグレに救ってもらった彼女。
ある意味では命の恩人ともいうべき人物が、目が届くどころか、手が届きそうな距離で命の危険に晒されているのに、助けに入ることもできない。
それがどれほど歯痒いか。
けれど、程度の差はあれど、アスナやサチも同様だった。
違うとすれば、それを真っ直ぐに表現する純粋さがあるかという部分。
そういう意味では、ストレアはあまりに純粋だった。
「っ…くそっ!!」
苛立ちを隠さずにシールドを殴りつけるキリト。
傷をつけることすら出来ないとしても、そうせずにはいられなかった。
「……お、おい、そこにいるのはキリトか!?」
入口の方からかけられる声。
ただならぬ状況と判断したのか、見知った様子で声をかけてくる赤が基調の装備に身を包んだ男性。
「クライン…」
そんな彼に、キリトが返事を返す。
呼ばれた男性…クラインもただ事ではない状況と悟ったか、キリトの近くに駆け寄り、シールドで分断された内部を見て息を呑む。
「あいつは…俺たちの仲間のシグレだ。罠にかかって分断されたんだ…この壁は破壊不能で、助けにも入れない…!」
「…見るからにやばそうじゃねぇか。このまま見殺しってことかよ…!」
なんてトラップだ、とクラインは苛立たしげに言う。
けれど思いついたように。
「そ、そうだ…転移結晶は!?」
「…あいつが気づいてないはずがないし、何より俺の転移結晶も反応がない…おそらく無効化エリアだ」
「くそ…ただ見てるしかないってのかよ!」
キリト達がどれだけ強かったとしても、それはプレイヤーとして。
当然ながらシステムの制限に抗うことはできない。
「…そうだ、ユイ!管理者権限があるユイなら…!」
ストレアの縋るような言葉に、ユイは首を横に振り。
「やろうとしたよ…だけど、このシールドは、最上位権限で複雑な暗号のロックがかかってる。これじゃいくら私の権限でも…」
出来なくはないが、時間がかかる。
何とかしようにも、この状況で彼が無事な間に助けられるか。
それほどまでに時間がかかるというのが、ユイの答えだった。
「…危ない!」
サチが声を上げる。
しかし、シグレには届かず、仮に届いていたとしても避けきれなかっただろう。
フロアボスが持つ大剣が、無情にもシグレの胸を貫き、剣先が背中から突き出していた。