ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
犠牲者は…一人。
「シグレ…」
ストレアが犠牲者の名を呼ぶ。
HPは僅かに残っているが、ポーションを使おうにも気を失っている相手に飲ませる事などできないため、今は自然回復を待つのみだった。
それでも多少回復し、今はHPが1/3程度までは戻ってきている。
しかし、それでもシグレは目を覚ます気配がなかった。
「…何で、目を覚まさないの…?」
サチが不安げにシグレの頬を撫でる。
それで眉の一つも動かないあたり、本当に気を失っているのだろうというのが見て取れる。
「…転移門のアクティベートは…頼めるか?」
クラインが自分のギルド『風林火山』のメンバーに声をかけると、メンバーは異を唱えることなく、上の層への扉を上がっていった。
「……シグレ、だったか。落ち着いた所まで運ぶんだろ?手伝うぜ」
「あ、あぁ…悪いな」
「いいってことよ」
クラインの申し出にキリトが礼を言い、シグレを介抱しているストレアに近づき。
「…手伝いますよ、お嬢さん」
言いながら、シグレに手を伸ばすクラインだったが。
「…大丈夫。アタシが…運ぶから」
「いや、ンな事言っても…」
クラインが触れる前に抱き寄せるストレア。
とはいえ、いくら両手剣を振るう力のある彼女とは言え、女性が男性を一人抱えて歩くのはさすがに無理がある。
それでも譲らずに聞かない今のストレアは、子供のようにも見える。
「…いくらストレアさんでも、ちょっとそれは難しいんじゃ…」
「っ…」
それでもアスナに指摘され、やがて観念したかのようにシグレから手を放し。
「…お願い、します」
「おぉ」
ストレアがクラインに頼み、クラインがシグレを背負う。
体の力が抜けていて、遠慮なくシグレの体重がかかるが、さすがに余裕そうだったが。
「…あー、その…なんだ。ストレアさん?」
「…?」
クラインがストレアに声をかける。
「すみませんが、こいつの刀だけ…持ってやってくれませんか」
「っ…うん」
それはクラインなりの、ストレアへの気遣い。
それを分かっていたのか、ストレアは素直に応じ、鞘に納まったシグレの刀を外し、自分で抱える。
「んで、キリト…どこまで運べばいいんだ?」
「…22層にホームがあるんだ。着いてきてくれ」
「あいよ」
知った仲のキリトとクラインに続き、皆がその後に続き、ボス部屋を後にした。
「…ストレアさん。シグレ君は死んだわけじゃない…きっと目を覚ますから。信じて待とう?」
「……うん」
アスナが諭すように言うも、ストレアの表情は冴えない。
尤も、今その場には、冴えない表情ではない人物は一人もいなかったが。