ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
22層。
今となっては、ギルドであればギルドホームと言って然るべき場所になりつつある、日当たりのいい小屋の一室。
その部屋で、シグレは皆の心配を他所に眠り続けていた。
クラインはシグレを運んだ後に、別行動していたギルドメンバーと合流するために去っていった。
「…」
一方、シグレを除く皆はシグレを休ませた部屋にはおらず、リビングに集まっていた。
静かに休ませてあげたい、というサチの提案だった。
それを一番嫌がったのはストレアで、最初は頑なに離れようとしなかったが、皆の説得で渋々、といった感じで連れ出した。
「…皆、聞いてくれるか?…前、シグレと話した時の事」
キリトがその重々しい空気を破る。
アスナ、サチ、ストレアの三人がキリトを見て、先を促す。
彼女らの視線を受け、キリトは言葉を続ける。
「俺…あいつに聞いたことあったんだ。あいつが戦う理由」
「……なんて、言ってたの?」
アスナが尋ねる。
事情を聞いたうえで、帰りを待つ者がいない、と本人の口から聞いた彼女が一番気にしていた部分だった。
それを知ってか知らずか、キリトは続ける。
「はっきり聞いたわけじゃないけど…あいつは多分……」
一瞬言葉を止める。
けれど、意を決したように。
「…多分、このアインクラッドのどこかで…死ぬつもりだったみたいなんだ」
「っ…」
キリトの言葉に、サチは息を呑む。
誰もが死なないために戦ったり、街で安全に過ごしたりしている事を考えれば、普通ではない目的。
無理もない反応といえる。
「…アタシじゃ、シグレの生きる意味には…なれないのかな」
ストレアが落ち込みながら言う。
シグレと共に戦った時間がおそらく一番長く、彼に一番の信頼を寄せる彼女にとっては、それが何より辛かったのかもしれない。
「アタシがAIじゃなくて、人だったら……!」
「…ストレアさん」
思考のドツボに嵌り、自分を追い詰めていくストレアをアスナが止める。
「ストレアさんだけのせいじゃない。私だって…貴女と同じで守りたいと思ってたのに、こうなってしまった」
「…私も、彼と一緒にいるためにここまで頑張ってきたつもりだったけど…ダメだったから」
今にも泣き出しそうなストレアをアスナとサチが慰めるように言う。
「う、ぅ…シグレ…シグレぇ……!」
けれど、二人の慰めも空しく、ストレアは最悪の結末を想像してついには泣き出してしまう。
それほどまでに、彼女の中ではシグレの存在が大きくなっていた。
「…本当に、馬鹿だよなあいつ。こんなに想ってくれる人がいるってことも気づかないで…!」
キリトがそんな彼女らの様子を見ながら、今ここにいないシグレに苛立ちをぶつけるように言う。
「…ひょっとしたら、あの人が目を覚まさないのは、それが理由かもしれません」
「ユイ…?」
思いつめた空気を打ち破るように話し出したのはユイ。
そんな彼女に、キリトが彼女の名を呼ぶ。
「このソードアートオンラインはある意味で、精神世界ですから…心の強さが、その人の強さになる事も」
例えばここにいる皆が生きてここから脱出する、という想い。
現に、その反対の感情…すなわち、絶望などの負の感情を目の当たりにしたユイはエラーを蓄積してしまう、といった障害を起こしている。
「…だから、シグレさんがそう思っていたとしても。死を望んでいたとしても…それより強い想いがあの人に届けば…目を覚ますかも」
ユイの言ったことは、明らかに精神論。
現実主義者であれば、一笑に付すような話。
けれど、縋るものもない彼らにとって、希望を見出すにはあまりに十分な理由だった。