ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Kirito ***
ユイの話が終わってから、重い空気を変えるため、また、気分転換も兼ねて、一度解散することになった。
「はっ!……せいっ!」
キリトは小屋の外で、木刀で素振りを行っていた。
その様子を、ユイはじっと見守っていた。
「…それって、剣道…ですか?」
「あぁ。ただ暫くやってないから…型なんてすっかり忘れちまってるけどな」
ユイの言葉に、キリトは答える。
けれどユイから見れば、非常に丁寧な素振りにも見えていた。
「……俺、一回あいつと決闘して…その時、負けちゃったんだ」
「パパが…ですか?」
「あぁ。だから今度は…勝ちたい。負けっぱなしじゃ…終わりたくないんだ」
ユイに答えながら、素振りを続けるキリト。
キリト自身、剣道に夢中になるのは何年ぶりだろうと思う。
まともに長続きしなくて、妹に負担を背負わせ、距離を作ることになってしまったそれに、仮想世界の中でのめりこんでいる。
「だから…とっとと目を覚ましてもらわないとな」
言いつつ、素振りを続けるキリト。
目を閉じながらの素振り。
キリトの視界は暗いが、彼の目の前には、シグレがいた。
「……」
かつて、一度だけ決闘をした時の印象による幻想であるが、キリトにとっては練習相手として申し分がなかった。
木刀を構える自分と対峙するシグレ。
その隙の無さは、うかつに踏み込ませない威圧感のようなものを感じる。
「…はあぁぁっ!!」
目を開き、剣を振りながらの踏み込み。
剣道で、面を打つように。
けれど。
「…ダメだな。こんなんじゃ、あいつには勝てない…!」
言いながら、再度素振りを始めるキリト。
この世界で、素振りをする事自体に意味があるかは、キリト自身半信半疑な部分があったが。
「…はっ…せいっ!」
不思議と、素振りをやめようという気がしなかった。
シグレに勝ちたい。
剣士として、シグレを超えたい。
「きっと…あいつと知り合ってれば、剣道…続けられたかもなぁ」
そう、キリトは呟く。
そうすれば、自分が剣道を続けて、妹は年頃の女の子のようになれていたのだろうか。
意味のない仮定だが、何となく考えてしまう。
「あの人は、パパにとっての…目標なんですね」
「目標?……うん、そうかもな」
ユイに言われ、少し考えて、キリトは頷く。
目標…間違ってない気がする。
超えたいと思う一方で、越えられないような強さを持っていてほしいという矛盾。
けれど、別に嫌いではないし、嫌でもない。
できることなら、現実に戻っても友人でいられたら。
キリトはぼんやりと、そんな事を考えていた。
「…早く目を覚ませよ、シグレ」
今も眠り続けるシグレに言うように、空を見上げながらキリトは呟いた。
*** Side Kirito End ***