ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

92 / 251
第88話:好敵手(とも)として / Kirito

*** Side Kirito ***

 

 

 

ユイの話が終わってから、重い空気を変えるため、また、気分転換も兼ねて、一度解散することになった。

 

 

「はっ!……せいっ!」

 

 

キリトは小屋の外で、木刀で素振りを行っていた。

その様子を、ユイはじっと見守っていた。

 

 

「…それって、剣道…ですか?」

「あぁ。ただ暫くやってないから…型なんてすっかり忘れちまってるけどな」

 

 

ユイの言葉に、キリトは答える。

けれどユイから見れば、非常に丁寧な素振りにも見えていた。

 

 

「……俺、一回あいつと決闘して…その時、負けちゃったんだ」

「パパが…ですか?」

「あぁ。だから今度は…勝ちたい。負けっぱなしじゃ…終わりたくないんだ」

 

 

ユイに答えながら、素振りを続けるキリト。

キリト自身、剣道に夢中になるのは何年ぶりだろうと思う。

まともに長続きしなくて、妹に負担を背負わせ、距離を作ることになってしまったそれに、仮想世界の中でのめりこんでいる。

 

 

「だから…とっとと目を覚ましてもらわないとな」

 

 

言いつつ、素振りを続けるキリト。

目を閉じながらの素振り。

キリトの視界は暗いが、彼の目の前には、シグレがいた。

 

 

「……」

 

 

かつて、一度だけ決闘をした時の印象による幻想であるが、キリトにとっては練習相手として申し分がなかった。

木刀を構える自分と対峙するシグレ。

その隙の無さは、うかつに踏み込ませない威圧感のようなものを感じる。

 

 

「…はあぁぁっ!!」

 

 

目を開き、剣を振りながらの踏み込み。

剣道で、面を打つように。

けれど。

 

 

「…ダメだな。こんなんじゃ、あいつには勝てない…!」

 

 

言いながら、再度素振りを始めるキリト。

この世界で、素振りをする事自体に意味があるかは、キリト自身半信半疑な部分があったが。

 

 

「…はっ…せいっ!」

 

 

不思議と、素振りをやめようという気がしなかった。

シグレに勝ちたい。

剣士として、シグレを超えたい。

 

 

「きっと…あいつと知り合ってれば、剣道…続けられたかもなぁ」

 

 

そう、キリトは呟く。

そうすれば、自分が剣道を続けて、妹は年頃の女の子のようになれていたのだろうか。

意味のない仮定だが、何となく考えてしまう。

 

 

「あの人は、パパにとっての…目標なんですね」

「目標?……うん、そうかもな」

 

 

ユイに言われ、少し考えて、キリトは頷く。

目標…間違ってない気がする。

超えたいと思う一方で、越えられないような強さを持っていてほしいという矛盾。

けれど、別に嫌いではないし、嫌でもない。

できることなら、現実に戻っても友人でいられたら。

キリトはぼんやりと、そんな事を考えていた。

 

 

「…早く目を覚ませよ、シグレ」

 

 

今も眠り続けるシグレに言うように、空を見上げながらキリトは呟いた。

 

 

 

*** Side Kirito End ***


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。