ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Strea ***
宛てもなく一人、22層の森の中をぼんやりと歩き続ける。
何かをするわけでもない。
本当なら、シグレの傍で、目を覚ますのを待ちながら看病をしたいと思っていた。
「…気分転換、かぁ」
ぼんやりと空を見上げる。
森の中ということもあり、木の葉の隙間からほんのりと陽の光が差す程度。
きっといつもなら、この気候を楽しむ事ができたのだろう。
けれど今は。
「ん…」
そのような気が微塵も起きない。
近くの木の根元に腰を下ろし、手に持っていたシグレの刀を抱きしめる。
頬に当たる刀の感触は、その持ち主とは全く違った。
「冷たい…」
無機物だからだろうか、ひんやりとしていた。
ストレアは普段両手剣を振るっているが、あれから刀を手放そうとは全く思わない。
「…冷たいよ、シグレ……」
肩が震える。
暖かいはずなのに、寒いとすら感じる。
装備のせいだろうか。
かといって、厚着をしようとは思わない。
「アタシ、シグレを…守れなかった…っ」
守ると、決めたのに。
それができないほどに、弱い、と思い知らされた。
戦いの強さにおいても、心の強さにおいても。
…戦いの強さがあれば、あの時シグレを一人で戦わせることもなかったかもしれない。
…心の強さがあれば、今こうして、まるで全身が氷の中にあるような冷たさを感じることもなかったかもしれない。
幻影の死神、なんて呼ばれるシグレだが、アタシにとっては英雄だった。
無茶苦茶な方法とはいえ、消滅の危機から救ってくれた。
たったそれだけ、と言われればそれだけである事は間違いない。
けれど、そのおかげで今、ここにいる。
それが全てだった。
そんな彼が、自分の弱さが原因で、いつ覚めるともわからない眠りについている。
「…ごめん、ごめんね…シグレぇ……!」
それを皆…アスナ達に言えば、貴女のせいじゃない、と言ってくれるかもしれない。
それとも逆に責められるだろうか。
人の心に寄り添うメンタルヘルス・カウンセリングプログラム試作二号。
尤も今は、その権限を外されているが、機能全てを失ったわけではない。
忘れたわけではないが、今シグレは眠っているだけで、死んでしまったわけではない。
それでもいつ目を覚ますか分からないという不安。
それが募り、最悪の結末への道筋を想定してしまう。
無意識に、鞘に納められた刀を強く抱きしめる。
意味などなくても、せめて、そこにシグレがいると思いたくて。
鞘に納まっているとはいえ、抱きしめた刀が、少しだけ痛い。
けれど、今はそんな痛みにすら縋りたいと考えてしまう。
「ん……」
最初は、恐怖や不安という負の感情に襲われるでもないのに無茶な事をする彼のカウンセリングの為だった。
それこそが、アタシやユイの存在意義。
…ねぇ、アタシはアナタの役に立ててる?
それとも、足を引っ張っただけだった?
アナタは溜息ばっかりだったけど、時々笑ってくれてたよね。
アナタの事が好きだって思い始めてから、アナタがいないだけで、アタシはこんなにも弱くなっちゃう。
「これじゃあ、アタシがカウンセリングされる側だね…」
迷惑だと思われてもいい。
アタシの為っていう理由でもいいから。
早く目を覚ましてよ…シグレ。
*** Side Strea End ***